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四章 氷の女王


「コンスタンチン=カリーチニヴイ=トリナーッツァチは知っているかね?」
「はい。此処に来る前にお世話になりました。」
 ピョートルはゆっくりと頷いた。
「彼が三発殴る、と云う事になっている。」
 急に血の気が引いた。
 魔物すら絞め殺す彼の事だ。三発も殴られたら、怪我では済まない。殺される 。
「でも見付からなければ済む、って人もいるでしょう?」
「魔法使いがめっきり少なくなってしまった事も関係していると思うが、此処何 年か一度も起こってない。」
「あの人に三発も殴られるくらいなら正式に許可取った方が楽ですよ。」
「あぁ。彼に三発も殴られて生きていられる人間がいるなら見てみたいものだ。 」
「……。」
 死んだのか。
「惨い……。」
「そうかね?私は然るべき処置だと思うよ。」
 ヴェルディー帝国の人間は残酷な事が好きなのだろうか。キアラは首を捻った 。
 ピョートルは扉を開け放つ。萎縮してしまうのは、コンスタンチンの話を聞い てしまったからだろう。
「この部屋に入る許可を持っているのは君を含めて二人だが、もう一人の方はそ れ以前の問題だから暫くは此処は君の物と言っても過言ではない。」
「――素敵。」
 キアラは足を踏み入れた。
 オレンジ色の薄明かりに照らされ、荘厳に立っている本棚と本。
 ピョートルが掃除をしているのだろう、埃は何処を見渡しても全く積もってい ない。
 カーペットを汚す幾分かの染み。それすらが此処ではインテリアとしての役割 を担っていた。
 私の王国。そう叫びたくなるのを我慢してキアラは本を一冊手に取った。
「私は図書館にいるから帰り際に声を掛けてくれ。」
「えぇ――。」
 素晴らしい王国。キアラはうっすらと微笑んだ。
 ピョートルが扉を閉めるとキアラは地べたに座り込む。
 辞書を捲くる指が一々楽しい。
 キアラは口元の笑みを左手で覆い隠した。



 第一のまとめとして、キアラはこの時代に来てから魔力が強くなっている。し かも徐々に、急激に。
 最初は二人一緒に魔法陣を描いて転移するのが精一杯だった。しかし今はどう だ。
 そしてこの国だからかこの時代かは分からない。しかしキアラの知らない魔術 が沢山あった。
 だがそんな中にも泳唱破毀は載っていない。
 その中にはシルヴェールが以前言っていた魔石の存在も載っていた。文面から 推測するに、キアラの時代にはどうも掘り尽くされたらしい。
 どうやら魔術と魔法の違いは、呼び方だけのようだ。
 キアラは床に寝転がる。
 疲れた。一眠りしてから、またこの書庫を漁ろう――。
「キアラ=グレース=ルーシュ。」
 扉が開け放たれ、眩しい光が飛び込んで来る。キアラは目を細めてその光の中 の人物を見た。
「ピョートルさん――?」
「レフ=ソーンツェフが君を探している。」
「――。」
 どうやらキアラは二日も完徹してしまったらしい。
 欠伸を噛み殺しながらキアラはピョートルの方へと向かう。
「元気な人ねぇ。」
「君が煽ったんじゃないのか?」
「人聞きの悪い。」
 本当の事を言えば半分そうなのだが。
「私は日を決めただけよ。」
「立派に煽っているだろう。」
「そんな。」
 キアラは久しく使っていなかった筋肉を伸ばした。ゆっくりと伸びる感覚が気 持ち良い。
 学んだ魔法をレフで試し撃ち、なんてピョートルには言えない。
「ご飯食べたい。」
「……。部屋に帰れば用意してあるだろう。」
「じゃ、腹拵えしてくる。」
 キアラは部屋を出る。出来ればこのままにしておいてほしいが、どうやらそう もいかないようだ。
 ピョートルはキアラが近くにいるにも関わらず扉を閉める。
 もしかしなくても、キアラは邪魔だったらしい。
 しかし人にどう思われようが落ち込んでいる暇は無い。キアラは腹を優しく摩 って部屋へと向かう。
 と。
「キアラァ。」
 一番会いたくなかった人に会ってしまった。
「会いたかったぜ。」
 言うが早いか、レフは剣を抜いてキアラに切り掛かって来た。
 此処では魔術を使いたくても使えない。
 キアラは窓に向かって走り硝子に体当たりを食らわしぶち破って外に出た。
 お腹も空いたし寝不足だし殺される。
『EGO scisco mos ventus is(気ままなな風に我は問う)
EGO scisco solvo ventus is(自由な風に我は問う)
Vos mos pulsus pro quos(汝は誰が為に吹くか)
Vos mos pulsus vobis(汝は其が為に吹くか)
Dum illic est pauci is , commodo nitor vos in mihi(少しの間汝を我に預けよ)
Commodo pulsus pro pauci terrenus tutus』(少しの間我が為に吹け)
 と、下から突風が吹き荒れた。キアラが落ちる速度が緩くなる。
 これで落ちても死なないし腹拵えする時間を稼げる。安心してキアラは後ろを 振り向いた。と。
 レフも上から落ちていた。
 馬鹿だ。絶対に馬鹿だ。
 そんな薄ら寒い気持ちになりながもキアラは必死に次の手を考える。
Tripudio , quod tripudio(踊れよ踊れ)
A filia of terra(土の娘よ)
Tripudio , quod tripudio(踊れよ踊れ)
Rutilus induviae Operor vos volo is?(紅き服 欲しいか)
Rutilus shoes Operor vos volo is?(紅き靴 欲しいか)
Rutilus orbis Operor vos volo is?(紅き輪 欲しいか)
Tripudio , quod tripudio(踊れよ踊れ)
A filia of terra(土の娘よ)
Tripudio , quod tripudio(踊れよ踊れ)
 書物で調べた魔法だ。勿論これが唱えるのは初めてである。
 風が止む。落ちる速度が一気に加速した。
 目の端で揺らぐ大地。槍のように鋭いかと思えば、底が見えなくなる。
「げ。」
 これはヤバい。この範囲の広さは無関係な者も巻き込んでしまう。
recolligo(集!)
 鈍い痛みにキアラは胸を掴む。
 一端は術を中止させておいたのだが――。
 迫るレフの剣。どうすれば良い。
 と、背中から地面に落ちた。口から何かが飛び出ようとする。
 キアラの肩を掠めて地面に突き刺さる剣。
Torva an apparition of a victus alio of thunder experior futurus vos(荒ぶる雷の精霊よ)
EGO scisco EGO sententia(我汝に乞う)
Vis of sententia in EGO manus manus(汝の力を我手に)
EGO scisco EGO sententia(我汝に乞う)
Anger of the thou to his person(汝の怒りを彼の者に)
 キアラの掌を軸にするように稲妻がほとばしる。それはレフへと一直線に向か っていた。
 レフが身を逸らす。キアラは刺さっていた剣を蹴り飛ばした。
 硝子が割れるような鋭い細かい音。
 反射的に音の方へ振り向くと、剣はヴィルの手に握られていた。
 しかしキアラには今他人に構っていられる心の余裕が無い。
 これは得意ではないからあまり使いたくないのだが――。
A alio drifting forever(永久に流れる者よ)
An eternus flow(永久の流れよ)
A alio subsequens infinitio(悠久に続く者よ)
flow volo(その流れを我に)
jugis volo(その続きを我に)
alio ut EGO can exsisto iratus(我は怒れる者)
The actor's mask that I fui a flow(我は流れを持つ者)
 すぅ、と、キアラの指が薄く裂けて血が流れた。その血が地面に達すると、地 面が割れ水が一直線にレフへと走る。
 と、首の直ぐ横を剣が走った。
 レフではない。振り向くと、ヴィルが、あの暗い目でキアラを見詰めていた。  喰われる。
Apparition of a victus alio Owen of flamma(炎の精霊オーウェンよ)
EGO to order mihi , sententia efficio is(我、汝に命ずる)
Tribuo scabrosus ut sententia , quod EGO have is a alio(我は汝に紅を捧げし者)
Tribuo vita ut sententia , quod EGO have is a alio(我は汝に命を捧げし者)
sententia dat flamma volo(汝は我に炎を捧げ)
sententia dedicates vita volo(汝は我に命を捧ぐ)
EGO mos exuro a scelestus res(邪悪なものを焼き払おう)
EGO mos exuro universitas res condita vulnero(仇成すものを焼き尽くそう)
 炎がヴィルを包み込む。が、ヴィルはそれをものともしていなかった。それど ころかあの暗い目でキアラを見詰めたままキアラに近付いて来る。
 この国に来てから、自信喪失するような事が多い。
 めげないめげない。
 炎が駄目なら、水だ。
 キアラは少しでも距離を稼ごうと後退さる。が、キアラは殺気に後ろを向いて しまった。
 ヴィルの投げた剣はキアラの首を掠めてレフにまで行ってしまったようだ。
 前も敵、後ろも敵。周りに被害を出さずに勝つにはどうしたら良いのだろう。
 と。
「こンの蜥蜴野郎。キアラは俺の獲物だ。」
「お前も死ね。」
 チャンスだ。キアラはにたりと笑った。
 二人のいない方に背を向けて、距離を離す。
「あの氷女が五月蝿いからな。一度お前とは殺り合ってみたかったんだ。」
 ヴィルの左眉が跳ね上がった。
「アレクセイを氷女等と呼ぶな。」
「氷女は氷女だ。」
「……。」
 貰った。
Tripudio , quod tripudio(踊れよ踊れ)
A filia of terra(土の娘よ)
Tripudio , quod tripudio(踊れよ踊れ)
Rutilus induviae Operor vos volo is?(紅き服 欲しいか)
Rutilus shoes Operor vos volo is?(紅き靴 欲しいか)
Rutilus orbis Operor vos volo is?(紅き輪 欲しいか)
Tripudio , quod tripudio(踊れよ踊れ)
A filia of terra(土の娘よ)
Tripudio , quod tripudio(踊れよ踊れ)
 先程よりは魔力を絞ってある。
 ぐねりと地面が歪み、踊った。高くなったり低くなったり。レフの姿が見えな くなる。
 ――死んでいないだろうな。
 だが、ヴィルは。ヴィルは浮かんでいた。
 人間じゃないからか。キアラは歯を食い縛る。
 魔力の放出を止める。ヴィルにこれは効かないから。
 心配になってレフを探すと、燃え立つような赤毛が剣を杖に立っていた。この 様子ならレフは大丈夫だろう。
 ヴィルはどうしよう。
「……。」
 暗い、眼が。
 殺される。首を絞められて、火の中に押し込まれて、鍋で煮られて、腹を踏み 付けられて、本の角で殴られて、逆さに持たれて、包丁で切り付けられて、川に 頭を付けられて。
「ひっ!」
 眼が迫る。
 呪文を唱えようとして初めて喉が乾き切っている事に気付く。
apparition of a victus alio of ventus(風の精霊よ)
Tribuo mihi vis(我に力を与え給え)
EGO adficio meus rutilus unda ut mercedis(代償として我が紅き水を下す)

A alio per possibility ut Utor sententia(我は汝を行使する)
alio ut EGO incidere totus down!(我は全てを薙ぎ払う者也!)
 吹き荒れる風に、耳元でピアスがりぃんりぃん、と鳴っていた。
 しかしヴィルは全く微動だにしない。
 どうすれば良い。どうすれば。
 と、背中で金属音が鳴り響く。
「この馬鹿が!」
 ヴィルから眼を離せない。けれども、声で分かる。
「クロード?」
「二日も図書館に篭った次は何だ?」
「いやぁちょっと。」
「何がちょっとだ。」
 続いて鈍い音。
「そんなに身体を酷使して、お前本当に帰る気あるのか?」
「ある。」
 と、急に膝が折れる。
 何だろう。頭にも、鈍い痛みを感じていた。
 殴られた。一体誰に。
 答えは直ぐに導き出されるもので。
「クロード!」
「それがある奴の行動か!俺には何だかんだ理由を付けて帰りたくないように見 える。」
 何だと。この男、今何と言った。
「んだと!?」
「だから俺にはお前が死にたいように見えるって言ったんだ!」
「自分の探求心を満たすのが何が悪い!?自分の力を試したくて何が悪い!?」
「お前はそうでも向こうは殺す気だろうが!」
 再び剣と剣の合わさる音。
「それとも魔術師って奴は皆そんなのか!?」
「知るか!」
 他の魔術師の事まで、知るか。
 キアラは振り返って、思い切りクロードの頭を叩いた。
 と、クロードが鬼のような形相で振り返る。
「キアラ!」
「何も知らない癖に説教してんじゃねぇよ!お前に説教されると腹立つんだよ! 」
「十七歳の小娘に説教して何が悪い!」
「こむっ!?」
「他人の事なんかお構い無しの自己中心的な阿呆な小娘だ!」
「そんな他人ばっかで自分の意思が無い女になりたくないだけよ!」
「お前急に図書館になんぞ引き篭りやがって俺達がどれだけ心配したか分かって んのか!」
 キアラは首を傾げた。
「心配?」
「そうだ。」
「どうして素性の知れない、しかも勝手に付いて来ている女の心配するの?」
「もう三ヶ月以上も一緒にいるんだ。それは普通だろ。」
「貴方にとって、私は死んでも差し障り無い存在でしょう?」
 その時クロードの顔が歪んだ。怒っているのか、悲しんでいるのか、それとも 、呆れているのか。
「お前は俺達が死んでも、悲しくないのか?」
「悲しい。三ヶ月以上もずっと言葉を交わしてきたから。でも、私にとって貴方 達は過去の人。それに、死なない人なんていない。」
「――。」
「きっと、貴方達の死はニーナ姫を除いて一番悲しい死だと思う。」
 しかしキアラの目的は呪いの正体を突き止める事。彼等が死んだとして、それ は通過点に過ぎない。
「でもだからと云って私は過去を振り返らない。悲しみは悲しみだけど――。障 害にはならない。」
「死んだら悲しい。いなくなったら辛くて不安。一緒にいたら嬉しい。それじゃ 駄目なのか?」
「感情なんて、未来に何があるの?私は今、シルヴェールを尊敬している。でも 私がシルヴェールを越えたらそれは過去になる。今私はテオドールを友人だと思 っている。でもテオドールが呪いな元だったら、私はテオドールを憎む。感情な んて、直ぐに変わるでしょう?」
「――お前はとんだ夢想主義者だな。」
 キアラの眉が跳ね上がった。キアラはリアリストだ。なのに、ロマンチストだ と。
「永遠に変わらないものがあるとでも信じているのか?」
「――ある訳無いじゃない。」
「でもお前は永遠を追い求めているだろう?」
 頭が真っ白になった。この男は何を言っているんだ。
「違う。」
 そんな事、永遠なんて有り得ない。
「だから勝手に絶望して拒絶するんだ。」
「違う!」
 全部移り変わるから、だから全て無駄で、キアラそれを知っていて。
「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違 う違う違う違う違う違う違う違う違う!」
 永遠なんて有り得ない。有り得ない有り得ない。
 そんなもの存在しない。
 だから、全て無駄で、何も無くて。
「永遠にこだわらないんならお前の姫だって連れてとっとと逃げれば良いんだ。 」
「違――ッ!」
「お前は国にこだわってんだろう?姫であることにこだわってんだろう?」
「違う――!」
 嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。
 どうしてキアラを傷付ける。どうしてキアラの心に土足で踏み入る。
 嫌いだ。クロードなんて大嫌いだ。
「違う。」
 違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違 う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違 う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。違ウ。チガウ。
「嫌いだァァァァァァァァァァァァァア!」
 消えてしまえ。全て、消えてしまえ。
 クロードもレフもヴィルもフリューベルもナジェージュタも祖母も父も母も姉 もジョルジュもルイーズもクロティルドもエメもテオドールもシルヴェールもロ ーズもコレットもマルセルも全部全部。消えてしまえ。
 キアラは自然と笑みが零れるのを感じた。
 出来るんだ。
 シルヴェールに教えてもらわなくても詠唱破毀が出来ていた。その証拠に、辺 り一面が火の海になっている。
「ふふふ。」
「癇癪起こしやがって。」
 クロードはとても苦しそうだ。なのに、とても嬉しかった。
「はは、ははは!あはははは!」
 出来た。ちゃんと出来た。
 どうして氷が邪魔をする。どうして水が邪魔をする。
 不愉快だ。
 要らない。水も氷も、要らない。

「要らない。」

イラナイ。

「消えてしまえ。」

キエテシマエ。

「キアラ!」
 イラナイゼンブキエテシマエ。
 ダレモワタシヲヨブナ。
 ワタシハチガウ。
 ナニモカモワタシモゼンブキエテシマエ。
「落ち着け!」
 ダレガワタシニボウリョクヲフルウノ。
 ワタシハダイジョウブ。
 イタイカラヤメテ。
「く――っ!」
「何が小娘じゃない、だ。」
 チガウ。ワタシハヒトリデダイジョウブ。
 カゾクナイテヒツヨウナイ。
 ワタシニハニーナガイルカラダイジョウブ。
「クロード、キアラは?」
「一先ず気絶させておいた。」
 チガウ。ワタシハチャントイル。
「一体何があったんだ?」
「キツく言い過ぎたから混乱したのかもしれない。」
 チガウ。
「クロード……。」
「何も分かってないから仕方無いだろう?」
 チガウ。ワカッテル。
「俺は是奴を運ぶからシルヴェールは女王陛下に謝っておいてくれないか?」
 チガウノニ。
「分かった。後で詳しく話してくれないか?」
「そんな話す事の程でもない。」
 違ウ。違ウノニ。
 私ハおかあさんミタイニ弱クナイ。
 えいえんナンテ信ジテイナイ。
 ソンナ偽善ナンテイラナイ。
 ダレモ、私ノ事ナンテドウデモイイト思ッテル癖ニ。
 ソンナフリシテモ分カルンダカラ。
 イラナイ。
 にーなノイナイ世界ナンテ、にーな以外ナンテ、わたしのせかいニイラナイ。
「キアラ=グレース=ルーシュ。」
 誰ヨ。
「力が欲しいか。」
 欲シイ。
「ならば我の契約せぬか?」
 イラナイ。貴方モイラナイ。



 頭が痛い。ぼんやりと、そんな事を思った。
 あんな事を起こしたのだから此処にはもういられないだろう。
 キアラは寝返りを打って枕を抱き締めた。
 此処を出て、ドュトルエル王国の隣国にでも腰を落ち着けて待とうか。ローズ 達が帰って来たらまた近辺を探ろう。
 キアラはベッドに手を付けて立ち上がった。
 支度は、禁書だけで良い。
 アレクセイには悪いが、もう此処にはいられないから。
『Metastasis』(転移)
 キアラは禁書を呼び出すと窓を開けた。
 寒いが強行突破するしかあるまい。
 窓枠に手を掛けて、窓枠を跨ぐ。この部屋が一回にあるのが幸いした。