僕の悪魔
オレの名前は将人。
自分で言うのも何だけど結構カッコイイ。
女が切れた事だって一度も無かった。
だから、オレにも敵は多い。
ふった女や寝取った女の男に一方的にオレに片思いしてたブス達。
怨むだけなら別に良い。
痛くも痒くもない。
ただ、問題は人を呪えるヤツがいる事だ。
ヤツは呪い業を営み金を巻き上げてオレを呪うオレが嫌いな幼馴染み。
しかも毎回決まって盲腸だから医者に顔覚えられたんだよ。
マジで恥ずかしい。
って事でオレは今もいつものように腹が痛くなっていた。
この痛さは盲腸。
そしてこれはヤツの仕業でしかない。
オレは急いでヤツの家に電話をする。
何回か電話が鳴る。
半端無く痛ぇ。
『もしもーし』
「民子おォォォォォ!」
怒りに任せて怒鳴ったら腹が痛くなった。
民子のヤロウ。
『将人くん、何?もうお腹痛くなった?』
「解け!」
『3万』
「幼馴染みだろ!」
『幼馴染みとゆー響きに甘えるな!』
こうしていつもの掛け合いが始まる。
――オレは何してるんだろう。
「ウゼーんだよこのブス!」
『当然の酬いだろうがこの性格ブス!』
「見た目良ければ全て良しなんだよバーカ!」
『胃潰瘍にしたろかこのトーヘンボク!』
――民子は言いたい事だけ言って電話を切った。
あのブス女。
その間にもどんどんオレの腹は痛くなる。
民子。
絶対にいつかぶっ殺す。
オレは誓いを新たに119を押したのだった。
――看護士さん、前のキレイな看護士だと嬉しいな。



いつもの通り入院して謎の回復で次の日に退院し、その次の日にはオレは学校に通っていた。
民子のヤツ、只で済ませると思ったら大間違いだからな。
「民子ォ!」
オレが怒鳴りながら教室に入ると一斉に皆がオレの方を見た。
民子の腐ったような死んだ目が憎らしい。
「またオレを呪いやがって何のつもりだ!」
「金儲けのつもり。」
「お前のせいでこっちは留年しそうなんだよ!」
「へぇ。民子感激。」
「んだとこのデブス!」
「誰がデブじゃワレェ!あたしはこれでも標準以下なんだよ!」
「ドコが標準以下だろ!お前の体型で標準以下なのは胸だけだろ!」
「誰がまな板じゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「誰もそこまで言ってないだろ!」
「本当は思ってるくせに!この巨乳好きエロエロもやし!」
「あ?もやしだと?お前がゴツイからだよ!お前の好きなペッキィ&タバサよりはマシだよ!」
「ペッキィを馬鹿にするなぁ!」
民子はオレに掴み掛かる。
このッ!
ゴリラ女がふざけるな!
「あの。」
気付けば先生が教壇の前に立っていた。
「授業、始めていい?」
「将人!」
民子がオレを指差す。
机の上に足を置いて。
パンツ丸見えだっつーの。
気持ち悪い。
「呪ってやるから覚えとけ!」
「止めろ民子!」



「あのブスマジムカつく。」
オレは机に突っ伏しながら呟いた。
「当然の酬いだろ?遊びまくってんだから。」
「何が悪いんだよ。民子のヤロウ、自分がブスだからってひがみやがって。」
「ブスブスってさ。確かに性格ブスだとは思うけど顔はフツーじゃない?」
「・・・。」
オレは唖然とした。
民子の顔がフツー?
冗談キツイ。
コイツらもオレにひがむのか?
「呪われるのが怖いから関わりたくないけどさ、呪いがなかったら一人くらい告ってそうじゃない?」
「一年の時に田村っていたじゃん。アイツ呪いが怖くて告るの止めたらしいよ。」
「やっぱりなー。」
「・・・。お前ら眼科行けって。」
「美人ばっかり相手にしてるお前にはブスに写るかもな。」
民子がブスなのは自然の道理だろう。
「精神科にでも行ったら?」
「ぶっ殺すぞ。」
「リュウキの頭が狂ってた事は証言してやるよ。」
「お前な。」
オレは手早くパンを腹の中に詰め込んだ。
民子がこっちを睨んでいるのが見えたからだ。
準備を整えて。
民子といつ戦っても良いように構える。
「・・・。お前達本当に仲良いな。」
「そんな冗談言って、民子に呪われても知らねぇからな。」
「をぃをぃ。責任取ってくれよ。」
「民子に金払え。」
民子は段々と近付いて来る。
顔は不機嫌そのもので、ブスに磨きが掛かっていた。
こんなのがブスじゃないって?
女なら誰でも良いんだろ。
民子はオレの襟首を掴む。
「将人!」
「何だよ?」
ちょっと冷静を装ってみる。
「来い!」
「来いって何のつもりだよ?愛の告白か?」
「このチンカスが!危篤だよ!」
「危篤って――。」
オレの血が一斉に引く。
危篤。
覚悟はしていたがこんなに早くとは。
「行くぞ!」
「何でお前まで!」
「あんたの母ちゃんはあたしの母ちゃん!」
訳の分からない理屈をこねやがって!
でも民子のお陰でタクシー代が払えた事は事実だ。



今は落ち着いてるけど覚悟して下さい、と言われた。

――母さんが倒れたのはつい最近の事だった。
胃癌。
しかも末期だった。
オレやオヤジの事なんて放っておいて遊びまくってた母さん。
でも母さんはオレの母親で。
母さんが末期癌だって知った時には悲しかった。
でもドコか冷めた気持ちでいた。
でもそれはオヤジだって同じだ。
母さんがこんな時でも、仕事を取ったんだから。
SF映画みたいにチューブで繋がれた母さんを見ても何も思わない。
少しでも長生きしたいと、抗がん剤を使った抜けた髪の後を見ても何も感じない。
母さん。
あんたの選んだ男とあんたが産んだ子供はこんなに白状なんだ。
オレは病院の椅子に座る。
そしてそのまま、やはり白状に、眠ってしまった。



「民子、好きだ。」
「何であたしがあんたと付き合わにゃならんのだ。」



「・・・。」
何かとても悪い夢を見た気がする。
もちろん民子関係だ。
オレの肩には毛布が掛けられていた。
優しい看護士さんが掛けてくれたのだろう。
母さんの病室に顔を出す。
母さんには変わりなく、看護士さんが見守っていた。
オレは病院を出る。
中庭では全てが見渡せた。
だから、見たくないものも見えた。
「――。」
制服のまま、民子が挙動不審に辺りを見渡している。
オレがいるぞ。
だけど、民子はそれに気付かずに納得したように頷いた。
詰めが甘いんだよ。
「スエタ!」
――。
その時の驚きは20へぇだった。
何にも無い所から、マジックのように人が表れた。
「何だ?」
「癌を治せ。」
「――は?」
「良いからごちゃごちゃ言わずに癌治すんだよオラァ!」
――。
やっぱり民子は悪魔だ。
「民子。」
オレが名前を呼ぶと民子はぎょっとしたような表情を見せる。
「もしオレの母さんの事だったら構わないからな。」
「――は?」
間の抜けた顔。
「お前の呪いなんかいらないから。悲しくないって言ったら嘘だけど。もう準備は出来てるから。」
「――葬式の準備か?」
低くくもごった声。
「死ぬのに準備なんか、あるワケないだろ。」
民子が怒るコトなんかじゃない。
「死ぬのを認めるヤツがいるか!」
「しかたねーだろタコ!それに癌治すってな、お前の変な呪術に頼るか!」
「あたしのじゃない!」
民子は胸を張って仁王立ちになる。
そして地面に向かって親指を下げた。
「悪魔のだ!」
「尚悪いわ!」
民子が悪魔を呼び出したからって驚けない自分が悲しい。
ま、人呪える時点で頭イカレてるもんな。
「あたしはおばちゃんを治すから!」
「止めろよ!」
オレは民子の肩を掴んだ。
何も知らない民子に掻き乱されてたまるか!
「どうせ離婚するんだ!愛した男の妻のまま死なせてやってくれ!」
「あたしがどーにかする!」
「民子!」
お前がどんなに呪えたって、悪魔を呼び出せたってこれだけは無理だ。
「あの人はあたしのおかーさまになる人だったんだから当然だろ!」
「は!?」
「結婚しようって言ったじゃないか!」
そう言って民子は走り出した。
待て。
昔の記憶が蘇る。
――嫌なコトもたくさん。
民子。
お前がオレをフッたんだ。



民子はすごかった。
母さんの癌が治ったばかりか、夫婦仲まで治っていたんだ。
息子のオレが見ていても恥ずかしいくらいべたべただ。
この年で妹か弟が出来るのは勘弁してほしい。
「――民子。」
オレは病室の外からいちゃいちゃするオヤジと母さんを見ている民子に呼び掛ける。
「中庭に行くぞ。」
民子は頷いた。
オレはいちゃいちゃしてオレには目もくれない母さんの肩を叩く。
「民子が見舞いに来てくれたから礼言いに行って来る。」
「あら?だったら私も――」
「あんたらがべたべたしてるから邪魔したくないんだとよ。」
だったら仕方無い、と母さんは止める。
呪いってヤツも効き過ぎはちょっとな。
困ったもんだ。
中庭に行くと民子が呆けたようにベンチに座っている。
オレは民子の後ろに立った。
「ありがとな。」
「あんたにそんなコト言われるとキショイんだよ。」
「ウゼーよ。感謝してんだから素直に受け取れ。」
すると民子は自分で両肩を抱えた。
そして眉間に皺を寄せる。
「マジキモ!」
「テメェの顔を鏡で見ろ。」
「見なくても分かってんだよ!」
「・・・。」
オレは暴れそうになる民子の腕を掴んだ。
そして顎を持って顔を上げさせる。
「・・・。将人?」
確かに美人とは言えない。
けれど、ブスとも言えない顔だった。
普通の顔。
だけどどちらかというと可愛い部類に入る方だろう。
「キモいんですが何見てんですか。」
「民子。」
女を口説く時のように、オレは民子の名前を呼んでやった。
民子は思わぬオレの反撃に固まる。
なんだ。
こういう対応すれば民子は黙るのか。
「お前がオレをフッたんだ。」
「え?」
いつもの「はぁ?」じゃない。
なんか少ししおらしいぞ。
「あたしはブスってあんたにフラれたんだぞ。」
「それはな――」
お前にフラれた腹いせにブスって言い出したんだ。
今の今まで忘れていた。
「とにかく。フッたのはお前だ。」
「あんただ。」
「お前だ。」
「あんただ。」
「お前。」
「あんた。」
「お前。」
「あんた。」
「お前。」
「お前だっつってんだろこのカスが!」
そう叫ぶと民子はスカートの中から藁人形を取り出した。
あれは!
民子が呪いに使う藁人形だ!
あれ見ただけでちょっとお腹が――
「思い知れ!」
「思い知らせてどうすんだ!」
「あたしの気が済む!」
「待て!早まるな!」
その瞬間、民子は崩れ落ちた。
「おぃ、民子?」
「眠らせたから安心しろ。」
そう言って民子の呼び出していた悪魔が表れた。
――主人に刃向かって良いのか?
「あんた、何のつもりだ?」
「・・・同類を助けたかっただけだ。」
コイツ――。
オレは瞬時に分かった。
「お前も苦労してたんだな。」
オレはヤツの肩を叩いた。
ヤツはオレから顔を背ける。
――何も言わなくてもオレはヤツが泣いているのが分かった。
オレはヤツの頭を撫でてやる。
「黙っててやるよ。」
「済まない。」
民子の弱点も分かった事だし。
何を勘違いしているのはフッたのは向こう。
こうなったら今までの復習だ。
楽しませてもらおうじゃないか。

――だがオレは知らなかった。
その時の民子には39°Cの熱があった事を。



「民子。」
学校で。
民子の名前を呼ぶと民子は固まった。
そしてそのまま耳元で囁く。
「おはよう。」
ピキリと民子は固まって動かない。
民子にもこんな弱点があったとは。
可愛いもんじゃないか。
オレはにたにた笑いが止まらない。
「今日は可愛いな。ブローでもしたの?」
十中八九、ただの寝癖だ。
「民子?」
民子は顔を真っ赤にさせている。
指先まで微かに赤いから傑作だ。
「今日さ、帰りに一緒にパフェ食べに行かない?民子の好きそうなパフェ見付けたんだよ。」
センベイパフェを。
「な?」
オレが民子の髪に触ろうとしたら民子は全速力で逃げ出した。
やった。
初めての勝利だ。
オレはにんまりと笑むしかなかった。
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