私の悪魔
「将人の野郎、盲腸でテスト受け損ねろぉ!」
あたしは藁人形に釘を打ち降ろした。
沢山のクラスメイトがあたしを見守っている。
気味の良い音がして、藁人形に深々と釘が刺さった。
「民子、ありがとう。」
わらわらと集まって来たクラスメイトの代表格があたしに一万円札を握らせる。
もうそんなに将人を呪っていたか。
「お陰ですっきりしたよ。」
「ありがとね。」
「今日からまた頑張れるってもんよ。」
あたしは去って行くクラスメイトを見送った。
――良い金蔓達。
「何かあったらまた言ってねぇ!」
そう、あたしは拝み屋民子。
呪いを掛ける事を生業する現役高校生。
ぼちぼち儲ってます。
あたしは一万円札を握り締めた。
「ペッキー&タバサのCD買いに行こ。」



ペッキー&タバサのCDに買いに行こうとして階段を降りると電話が鳴った。
お母さん、と叫びたい所だが母さんは今仕事に行ってて無理だ。
今、この家にはあたししかいない。
「もしもし?」
電話を取ると、急に怒声が流れ込んできた。
『民子!お前今度は何しやがった!腹痛』
ツーツーツー
あたしは電話を切った。
そんな事だから呪われるんだ。
野郎。
すると、また電話が鳴り出した。
そのまま家を出ようとした時。
「もしもし?」
「は?」
見知らぬ少年があたしの代わりに電話に出た。
しかし将人はそれをあたしだと思っているのか怒鳴り続けている。
『オレを呪うように言ったのは何処のどいつだ!言え!』
あたしはまた電話を切った。
そしていきなり表れた異国の少年を睨み付ける。
「あんた誰よ!人の家に勝手に上がるな!」
「それはお互い様だろ。」
何だとこの野郎。
少年はあたしを にするように首を竦めた。
「何がお互い様よ!あたしは人の家に勝手に上がり込んだ事は無い!」
「そうじゃなくて。」
少年は警察手帳のような物をあたしの目の前に押し付けた。
その手帳には少年の顔写真が載っている。
「僕は悪魔。君が僕達の仕事を取ってるから殺しに来た?」
「はぁ!?」
普通、あたしじゃなくてもこの場合は少しキツめに聞き返す。
そしてあたしは頭を指差した。
お気の毒に。
「あたし、此処の病気は預かってないからね。」
「違う!」
少年は思い切り首を振る。
「だから僕は悪魔。治安保護局の代表取締役スエタ。悪魔の仕事を奪っている君を殺しに来た。」
「仮にあんたが悪魔だとして。あたしが悪魔と同じ事をやっているとでも言うの?」
「君は人を呪ってるだろう。」
「それが何に繋がるの?」
「悪魔もそれが仕事!契約数が減って困ってんだよ!」
あたしはヤツにビンタしてやった。
訳分かんないヤツにあたしの仕事をとやかく言われる筋合いはない。
少年――スエタだっけ――は頬を擦る。
ザマアミロ。
「痛いじゃないか。」
スエタの目が光った。
あんた猫じゃあるまいし。
「母ちゃんにしかぶたれた事無いのに!」
「お前マザコンか?」
あたしは迫り来る光線を避けた。
藁人形を盾にして。
「くそった !」
「誰が か!」
呪い少女VS自称悪魔少年。
うん。
何となくイイ感じ。
油断大敵でその時、ヤツの光線があたしの頬を掠った。
「・・・。」
ヤツは嬉しそうにガッツポーズまで決めている。
――おにょれ。
あたしはヤツに藁人形を投げ付けた。
「あんたのお陰でブサイク通り越して美人になっちゃったじゃない!呪ってやる!」
「今まで通りブサイクだよ!」
「肯定せんかい!」
あたしは全ての藁人形を投げ尽くした。
どんなもんだい。
しかし、休む暇も無くあたしの後ろで電話が鳴る。
「もしもし?」
『盲腸って診断されたじゃねぇか!?』
将人の 野郎か。
あたしは舌打ちする。
『来週テストなんだぞ!どうしてくれるんだ!?』
「治して欲しかったら出すもん出しな。」
『鬼!幼馴染みだろ!?』
「幼馴染みと云う響きに甘えるな!」
『このブサイク! !ブタ!』
「呪ってやる!」
ブサイクと言われる覚えはあるが、 やブタとは言われる筋合はない。
一応標準以下だ。
振り向くと、あの野郎は消えていた。
「ふんっ!」
このあたしに恐れをなしたか。
「悪魔も恐れる呪い少女ぉ♪」
あたしはつい嬉しくて歌を歌った。



「ただいまぁ。」
母ちゃんが帰って来たのは十時を過ぎていた。
あたしは夜食作りの最中で、声だけを母ちゃんに掛ける。
「いつも悪いねぇ。あたしの為にチャーハン作ってくれて。」
「あたしの夜食だっつの。」
そう言いながらもあたしはチャーハンを二つに分けた。
あたしって優しー。
「民子、ありがとう!」
母ちゃんはチャーハンを頬張った。
手掴みって、あんた野生の動物か?
「そう言えば、末太まだ?」
「スエタぁ?」
あたしは顔をしかめる。
聞いた事あるよーな、ないよーな。
「あんた自分の兄ちゃんまで忘れたの?」
「母ちゃんに隠し子がいたなんて初耳だよ。
」 「・・・。あたしをおちょくって何か楽しい?」
「からかってんのは母ちゃんの方じゃん。」
あたしはチャーハンをトレイに乗せた。
それから麦茶とポテチ。
「勉強してくる。」
「藁人形作ってくるの間違いでしょ。」
「ご名答。」
かちゃかちゃ言わせてあたしは階段を上った。
夕方の変なヤツのお陰で藁人形全部作っちゃったからまた作らなければならない。
あー、思い出しただけで腹立つ。
あたしは馴れた手付きで藁人形を作り始めた。
愛しの藁人形ちゃん☆
出来た藁人形があまりにも可愛らしくてあたしは頬擦りした。
「忌多郎ちゃん。」
あたしは早速名前を付けて忌多郎ちゃんにキスした。
「また気持ち悪い事して。」
「何だとこのくそ・・・。」
あたしは言葉を飲み込んだ。
母ちゃんじゃない。
見覚えのあるヤツが勝手にドアを開けて立っていた。
ヤツは――。
「何しやがんだよこのマザコン悪魔!」
「兄ちゃんにそんな口聞いていいのか?ん?」
「あんだと?こんなマザコンを兄ちゃんに持った覚えはねぇぞ?呪ったろうか?」
「民子!」
母ちゃんが表れてあたしの耳を掴んだ。
痛い!
「母ちゃん何すんの!?」
「幾ら末太が嫌いだからってそんな口利くんじゃない。」
そしてにやにやしているヤツの耳も母ちゃんは掴んだ。
さすが母ちゃん。
「末太も!民子が嫌がってんのにわざわざちょっかい掛けない!」
「はぁい。」
ザマミサラセ。
ふんっとあたしは鼻を鳴らした。
「藁人形製作中だから立ち入り禁止。」
「ネクラだって思われるからもう止めたら?」
「そのお陰で借金全額返金できたんでしょ?」
「うっ。」
母ちゃんはそれ以上何も言えなくなった。
あたしは部屋のドアを閉める。
忌多郎ちゃんの次は不吉ちゃん。
藁人形は段々とあたしを取り囲む。
なんてス・テ・キ。
「本当にお前は不気味だなぁ。」
ヤツが来た!
忌多郎ちゃんと不吉ちゃん。
準備OK。
「スエキチ!」
「スエタだって。」
ヤツは藁人形を払い除けた。
ああ、不吉ちゃんが。
「何しに来たの?」
「だから、殺しに来たんだって。」
「あたしを殺したら呪ってやる!」
「・・・。本当に出来そうだな。」
「当然!あたしは呪いの恐子と云う二つ名が憑いてる女よ!」
「恐子?民子じゃなかったか?」
「 ね。二つ名よ。」
あたしは忌多郎を前に差し出した。
「殺れるもんなら殺ってみろ!」
「お構い無く。」
そして、呪い少女☆と自称悪魔少年の戦いが幕を開けた。



「中々やるな。」
「そっちこそ自称悪魔少年。」
「――本物だって。」
ヤツは疲れたように溜息を吐いた。
まだまだ。
「さぁ来いッ!」
「おぅ!」
「末太!民子!もう七時だから起きなさい!」
「はぁい。」
あたしはヤツを睨み付けた。
「一時休戦よ。」
そして不吉ちゃんや怨鎖ちゃんを拾い上げる。
ヤツもふらふらと窓から出て行った。
あたしはさっさと制服を着る。
寝坊したら母ちゃんが怖いからな。
リビングに降りると、いつ帰ったのか父ちゃんが食パンを囓っている。
あたしは父ちゃんの隣りに座って食パンを囓る。
「父ちゃんおはよ。」
「うん。」
「母ちゃんには?」
「おはよ。」
すると母ちゃんはあたしに牛乳を注いでくれた。
ついでに自分もパンを囓る。
「民子、末太の食べる?」
「ベーコンエッグ貰う。」
「オレはパン。」
「じゃ、あたしはフルーツ。」
「オレの朝食!」
その時後ろでヤツの叫び声が聞こえた。
ふふん。
あたしの家の掟を知らないからこうなるんだよ。
変な掟がいっぱいあるあたしの家で暮らすなんてヤツには無理。
因みに、これは母ちゃんが痺れを切らす前に起床しなければ朝ご飯抜きと云う掟に基づいている。
あたしはヤツに視線を送りながらヤツのベーコンエッグを頬張った。
あー、おいしー。
「民子!寄越せ!」
ヤツは事もあろうかにあたしのベーコンエッグの皿を取り上げようとした。
あたしはベーコンエッグを死守する。
ヤツはあたしの頭を押さえ付けた。
「きゃぁ!お兄ちゃんがいぢめるぅ!」
「末太!」
母ちゃんの鉄拳がヤツのつむじを直撃した。
素晴らしい。
ヤツは頭を押さえて恨めしそうにあたしを見る。
「この 助が!掟を破った上に民子イジメるんじゃないよ!」
「お、オレの朝飯――。」
母ちゃん、強い。
ヤツは完全にビビってリビングから出て行った。
あたしはヤツを視界に入れて嘲りながら朝ご飯を食べる。
何年ぶりかの何と爽やかな朝ご飯。
父ちゃんは朝ご飯を食べ終わって新聞を広げた。
「父ちゃん、昨日は何時に帰ったの?」
「五時。今日は夕方の五時に帰る。」
「・・・。あんまり言いたくないんだけどさぁ、その内死ぬよ。」
「あたしもそう言ってんだけど、この人聞かないのよ。」
「再来年には可愛い娘が県外に出るんだから出来るだけ多くの金を持たせたいだろう。」
――父ちゃん。
あたしはそんな事望んでないよ。
「――あたしは父ちゃんが元気な方が百四十五倍嬉しい。」
「民子よく言った!それでこそあたしの娘!」
母ちゃんはあたしを抱き締めた。
窒息死するぞ。
「その話は後で考えとくよ。」
「死ぬ前にね。」
そう言って母ちゃんはあたしを放した。
あー、苦しかった。
あたしは最後のベーコンを口の中に放り込むと、鞄を持った。
「そろそろ行って来る。」
「死ぬんじゃないよ。」
「死んで堪るか。」
「くれぐれも学校内で人を呪うなよ。」
「了解。」
自分で云うのも何だが、妙な会話である。
だがこれは家の掟に基づいているのだから仕方が無い。
因みに会話では真意のみを伝えるべしと云う掟だ。
あたしが外に出ると、クラスメイトが待ち構えていた。
昨日の今日で。
「何?」
「将人を治して欲しいの。」
出た。
良い子ぶりっこやっぱりあたしが悪ぅござんした編。
「良いけどさぁ。お金掛かるよ?」
「お金の問題じゃない!」
「何事も将人には代えられないわ!」
だったら最初から呪うな馬鹿。
あたしはそんな事を思いながら笑顔を浮かべた。
「あのね、予約が明日の深夜十二時しか空いてないんだけど、良い?」
「ええ、勿論!」
ふん。
「馬鹿だな。」
本当に馬鹿だ。
――って。
「末吉!」
「だからスエタだって。」
「手前何さらしに来たの!?」
「学校行くに決まってるだろ。」
「学校まで来るのかよ。」
あたしは舌打ちした。
悪魔の癖に学校にまで行くとは。
神聖なる学校が悪魔に汚されてしまう。
でも――。
「やっぱ部活はオカルト同好会?」
「馬鹿にするのも良い加減にしやがれ。」
何と末吉はあたしに向かって鞄を振り回しやがった。
このあたしに危害を加えようだなんて良い度胸してるじゃないか。
あたしは鞄から魔叉斗と吏血夜亞怒くんを取り出した。
魔叉斗を将人の野郎への恨みと一緒に投げ付ける。
「死ねぇ!」
「な、呪いを掛けるな!」
現役女子高生対悪魔の対決はまた始まった。



「民子、今日暇?」
「それなりに暇。」
「良かったぁ。」
三喜子は嬉しそうに手を叩いた。
一体何をしようと云うのだ。
三喜子は。
「今日ね、TOKYOのニューシングル発売の日じゃん。一緒に行こう!」
「いいよ。聞いたら貸してね。」
「あ、そうだ!ペッキィ&タバサのCD買った?」
「買った買った。」
「ペッキィ&タバサとTOKYOのCDに付いてるバーコードを送るとね、ジョ ニーズライブの一組二人のチケットが当たるんだって!」
「なぬを!」
ジョニーズライブはジョニーズの人気アーティストが集うライブだ。
そんなライブに行けるだなんと素敵過ぎる。
「クマップにも会えるのね!」
「キムクマ!」
「やだ。あれキモい。やっぱクマップと云えばクマイくんでしょ。」
「クマイくんって陰険じゃん。」
なぬ!
主はクマイくんを侮辱する気か。
あたしは半分本気になって机を叩き付けた。
三喜子も負けじと身を乗り出す。
「キムクマ!」
「クマイ!」
「キムクマ!」
「クマイ!」
「あたしはクマロウちゃんが良い。」
唐突な乱入者にあたしは驚いた。
倫子が新しいミオジを持って立っている。
読みたい!
でも口は全く違う事を言ってしまう。
「クマロウって三枚目じゃん。」
「其処が可愛いんだって。キムクマなんかよりよっぽど格好いいし。」
「それには激しく同感。」
「民子!」
あたしは三喜子に襲われた。
暴力反対。
やられてばかりも嫌なのであたしも倫子に掴み掛かった。
あたしと三喜子が互いの衣服を掴み合い揉み合いになっていると倫子が吹き出す 。
ちょっとムカつく。
「何だよ!」
「言いたい事があるんなら言え!」
「いや、何か味素真喜劇みたいだなぁって思って。」
「倫子!」
あたし達は倫子も揉み合いの輪に引き摺り込んだ。
ただ、ミオジは傷付けないように。



「ただいま。」
あたしは誰もいない家に帰った。
テレビを見ながら宿題して、ご飯を食べて、お風呂に入って、テレビを見る。
こうやって言ってみればかなりぐうたらな生活だなぁ、と気が付いた。
けれどこれも借金を作った父ちゃんの母ちゃんが悪い。
お前のせいで孫がこんなに育ってしまったぞ。
あたしは心の中で愚痴を零しながらしょうもないバラエティー番組を見た。
その途中で藁人形を作ったり呪いを掛けたりする。
しかしバラエティー番組の方は全然笑えない。
「お笑いブームも終わったな。」
あたしはテレビを消してチャーハンを作り始めた。
そう云えば父ちゃん、五時に帰るって言ってたのに帰って来ないな。
母ちゃんももうそろそろ帰って来る時間なのに。
チャーハンを作り終えるとあたしは電話に向かった。
父ちゃんが浮気してないか確かめてやる。
と、電話には三件の留守番電話が入っていた。
「何だ?」
ボタンを押すと機械的な父ちゃんの声が流れる。
まさかまた仕事が遅くなったのか?
『民子へ。今日は久しぶりに一家三人で外食に行こう。七時にいつもの店で待っ てる』
『民子!母ちゃんお腹空いた!来るんならさっさと来なさい!あと三十分経って も来ないんだったら父ちゃんと二人で食べるからね』
『民子、ご飯美味しかったよ。今から帰るから。民子の好きなチョコレートケ ーキも買ったから楽しみに待ってなさい』
そんな。
あたしは愕然とした。
久々の外食。
そして父ちゃん、あたしが好きなのはチョコレートケーキじゃなくて苺ケーキ。
ん?
待てよ。
一家三人って事は――。
「末吉め。あたしに恐れをなして帰ったな。」
でも何であたし、八時と九時の電話に気付かなかったんだろう。
家にいた筈なのに。
とその時、電話が光った。
しかしどんなに待ってもコールは鳴らない。
――末吉の野郎の嫌がらせか?
あたしは電話を取った。
「もしもし?」
『もしもし警察ですけど山口民子さんですか?』
「そうですけど?」
あたし、警察からお呼びが掛かるような事やったか?
いや、やったにはやったけどたかが呪いで警察が動くか?
普通。
『落ち着いて聞いて下さい。貴方のお父さんとお母さんが事故で即死に――』
「オレオレ詐欺なら間に合ってます。」
あたしは乱暴に受話器を置いた。
幾ら流行りだからって言って良い事と悪い事があるだろう。
と、もう一度電話が光る。
『警察です。民子さん、もう一度落ち着いて聞いて――』
「警察に訴えるぞ馬鹿野郎!」
また受話器を置くとまた電話が光った。
悪質なオレオレ詐欺である。
こうやって何度も電話を掛けて不安にさせる気か?
「だからオレオレ詐欺なら間に合って――」
『民子!お前のオジサンとオバサンが救急車から出て来たぞ!どう云う事だ!』



母ちゃんはしっかりとチョコレートケーキを抱えていたらしい。
お陰でチョコレートケーキは無事だった。
馬鹿。
チョコレートケーキ守る暇があるなら命を守れ。
そして父ちゃんはぐちゃぐちゃで何がどうだか分からなかった。
だから母ちゃんが浮気していないんだったら父ちゃん。
そんな曖昧だった。
だけど父ちゃんのスーツのポケットからは民子、お誕生日おめでとうと云うカー ドが出ていた。
仕事のし過ぎで頭までイカれたのか?
あたしの誕生日は来週だよ。
それに人に生きて帰れって言う前に自分が生きて帰れ。
「・・・馬鹿野郎。」
来週は久々の休みだから一緒にネズミランドに行こうって言ってたのに。
あたしが本命の大学に合格したら超豪華な店でお祝いしようって言ってたのに。
あたしが結婚したらイギリスに行こうって言ってたのに。
あたしに子供が産まれたら親子孫の三世代で遊びに行こうって言ってたのに。
父ちゃんと母ちゃんが年取ったら介護してあげるって言ってたのに。
「馬鹿野郎!」
あたしはぐちゃぐちゃになった父ちゃんに抱き付いた。
医者が止めても張り倒す。
大好きな父ちゃん。
大好きな母ちゃん。
どうして。
「どうして死んじゃったんだよぉ!」
「民子。」
「二人纏めて葬式なんてどんなに大変か分かってんのかよ!女子高生が一人で生 きるのがどんなに大変か分かってんのかよ!あたしがあんた達どんなに好きだっ たか分かってんのかよ!」
「民子、もう止め――!」
あたしは将人を突き飛ばした。
父ちゃんを抱き締める父ちゃんがもっとぐちゃぐちゃになる。
「呪ってやる!」
「――。」
「あんた達なんか天国にも地獄にも行けないように呪ってやる!」
「民子。」
「あんた達もあたしと同じくらい悲しませてやる!」
「民子!」
不意にあたしは強い力で抱き締められた。
それが将人の腕だと気付くのに随分時間が掛かる。
「――将人?」
「泣くなよ!お前が泣くと、オレは!」
「泣いてなんか、いない。」
あたしは将人の腕の中で暴れた。
逃れようとすれば逃れようとする程将人の腕の力が強くなる。
息苦しい。
けれど、――気持ち良い。
「放して。」
「父さんと母さんに言っとくから今日はオレん家泊まれ。」
「放してって言ってるでしょ!」
あたしは思い切り将人の頬を殴った。
「あたしは父ちゃんと母ちゃんと一緒にいる!ずっと一緒にいるんだから!」
「民子!お前何言って――!?」
「出てって!」
「民子!」
「出てって!あんたの顔なんか見たくない!」
将人を締め出すとあたしは父ちゃんと母ちゃんと三人になっていた。
あたしは母ちゃんの近くにあったチョコレートケーキを持つ。
母ちゃんがあたしに食べさせようとしてくれたチョコレートケーキ。
あたしは手掴みでチョコレートケーキを食べてみた。
「父ちゃん、母ちゃん、美味しいよ。けど――。」
あたしは下唇を噛み締めた。
「しょっぱくて寂しい。」
父ちゃん、母ちゃん、どうして死んだの。

その日、あたしは何年ぶりにか父ちゃんと母ちゃんと川の字で寝た。



「お前、狂っているのか?」
あたしはそんな声で目覚めた。
目の前ではスエタをそのまま大きくしたような男が立っている。
スエタは悪魔だし、やっぱりスエタだろうか。
あたしは起き上がって頭を掻いた。
「五月蠅ぇよ。馬鹿スエタ。」
「――。何を勘違いしているのか分からないが私はジャカーノ。スエタではない 。」
「あ、そ。それで何?」
「真佐絵と慎二郎の魂を頂きに参った。」
「何の権利があって父ちゃんと母ちゃんの魂を持ってくのよ。あげないんだから 。」
「――本当に何も知らないのか?」
ジャカーノは眉を顰めた。
何か一々の仕草がスエタのように鬱陶しい。
あたしはまた寝ようとした、がジャカーノに腕を掴まれる。
腕を払うとついでにビンタもおまけした。
「言いたい事があるんなら四百字詰め原稿用紙三枚以内に纏めて提出しろ。」
「無茶苦茶言うな。まあ簡潔に言うと真佐絵と慎二郎は私と取り引きした。」
「父ちゃんと母ちゃんが悪魔と?馬鹿らしい。」
「真実だ。だからお前が此処にいる。」
「は?」
あたしが馬鹿なのかジャカーノの説明が無茶なのか。
いまいち言ってる事が把握出来ないんですけど。
「真佐絵は十七年前、子供が出来ない身体だと宣告された。慎二郎が子供をあん なに楽しみにしている言い出せないと私と契約した。慎二郎も同じだ。」
「――えっと、父ちゃんと母ちゃんは子供が出来なかったからあたしを産む為に あんたと契約したと。」
「そうだ。そして魂の受け渡し期日が今日。」
「――。」
「だから渡してもらう。」
「やだ。」
「お前に拒否権が与えられているとでも思っているのか?」
「嫌なもんは嫌。」
「ほぉ。それでは力付くでも――」
「スエタ!」
あたしは力一杯スエタの名前を叫んだ。
悪魔に対抗出来るのは矢張り悪魔しかいないと思う。
「早く出てきなさい脳ミソカステラ!」
「誰が馬鹿だって!」
スエタは顔にムカつきマークを張り付けて現れた。
あたしは思いっ切りジャカーノを指差す。
「あれを殺っちゃって父ちゃんと母ちゃんを生き返らせて!」
「はぁ!?」
「魂あげるから、良いでしょ!?」
「魂――。」
と、途端にスエタの顔が歪んだ。
漫画に出てきそうな悪魔の顔になってジャカーノに向かう。
ジャカーノは微かに顔を歪ませて呟いた。
「兄上。」
「――。」
兄上。
外見的に兄弟だと云うのは信じられるけど普通逆だろう。
あたしはスエタにツッコミを入れようとする右手を押さえた。
此処でスエタの期限を損ねてはいけない。
「聞いたか?私は民子の魂が欲しい。」
「ま、待ってくれ、兄上。」
「一族の落ち零れのお前等、要らないのだよ。」
「兄う」
と、ジャカーノがスエタに吸い込まれるように消えた。
スエタの野郎、実は強かったのか。
侮れぬ。
と、スエタは父ちゃんと母ちゃんに向かう。
父ちゃんと母ちゃんの傷は治り、青白かった肌は微かに赤く色付いた。
生きている。
「父ちゃ!」
そう確信し、駆け寄ろうとした時、父ちゃんと母ちゃんは消えた。
「皆の記憶を操作して奇跡的に軽傷って事にしといたから。今病室にいる。」
「スエタ!ありがとう!」
「善意でやってる訳じゃないんだから礼はいらない。」
と、スエタはあたしに近付いた。
魂取られる時に痛くなかったらいいな。
スエタはあたしに手を伸ばす。
「いただきます。」
と、一瞬何が起こったのか分からなかった。
あたしは無事で、スエタが悶えながら床の上を転がっている。
あたしはしゃがんでスエタを突っ突いた。
「何やってんの?」
「民子!お前一体何をした!?」
「何って?」
「お前の魂を取ろうとしたら逆にオレが隷属させられたぞ!」
「逆に?」
逆。
反魂の術。
呪詛返し。
――呪詛返し。
「今日、藁人形作ってる時に間違えてスエタに呪詛返し掛けちゃった。てへ♪」
「てへ♪で済むか!」
「まぁ良いじゃない?全て丸く収まったし。」
「お前にとっては、だけだろ。」
「まぁあたしに隷属したんだから明日から扱き使わせてもらうわ。」
「この悪魔!」
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