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異邦人
実際に武術大会に参加し戦うのは三人。医療や補助として入れるのは二人まで。 形式は勝ち抜き戦で一人で三人を倒す事も可能。 勝敗は相手に参ったと言わしたら。但し殺してはならない。警察にご迅速頂く事になる。 ――此処までの説明を受けて宗一は戸惑った。 「このルールだと戦っている最中に医療や補助をしても構わないとなりますが。」 「あぁ、忘れてたが一人についタイムが一回五分まで。審判が確実に負けると判断しなけりゃそのタイムを使って治癒を受けたりしても良いって訳さ。」 そう言って説明をしてくれた青年は、人懐っこい笑みを浮かべて宗一にカードを渡した。 「参加費は優勝してからで良いよ。」 彼がそう言ってくれたのは横で優勝する気でいる桃耶のお陰だろう。柔軟体操をしながら十五万、と言っている。 そして更に目線を進むと疲れ果てた俊駕、無関心な雪慈がいた。 「今回は前回優勝の奴等もいるらしい。頑張れよ。」 豪快に笑いながら彼は宗一の背中を叩いた。とても痛いのだが彼に悪気はなさそうなので何も言えない。 「ありがとうでござる。」 桃耶は軽く会釈するとまた俊駕と雪慈を引き摺り始めた。 「宗一殿が医療で俊駕殿と雪慈殿と拙者で戦うのが良いでござろう。」 「だから俺は戦えねぇんだってば。」 「雪慈殿と拙者で全て倒すでござる。」 雪慈は微かに嫌そうに顔をしかめた。普段雪慈は無表情なので、表情が表れれば直ぐに分かる。 桃耶と俊駕の会話の何かが気に入らなかったのだろうか。または昨日の事で体調が優れないのだろうか。 宗一は心配になって雪慈に尋ねてみた。 「体調でも悪いのですか?」 「――人が多過ぎる。」 予想もしなかった答えに宗一は驚いた。 確かに祭なので人は多いと思うが、不快に感じる程は多くない。辺りを見渡せば何処かに人がいる、と云った程度だ。しかし雪慈は本当に嫌そうに顔をしかめている。 「どう云う事ですか?」 「人が多いと怨念や欲等負の感情が強くなる。」 「――、あんた、万能か?」 「そうであれば今、此処にはいない。」 そう言って雪慈の顔は切なかった。 精神的外傷。そんな言葉が宗一の頭を過ぎる。 癒したい。医者としてそう思うのは当然だが――。今の宗一には力が足りない。 今まで宗一が勉強してきた知識は大切な時に役に立たない。 いや、もし自分が知識を持っていても助けられないのかもしれない。なにせ今は自分も彼と似た状況なのだから。 「怨念や欲? 当たり前ではござらんか、お祭りでござるよ、お、ま、つ、り」 準備運動が終わったのか、ひょっこりと桃耶が会話に参加する。 「桃耶たちが平然なのは人間だからだ。あやかしなら、間違いなく気が触れる」 雪慈はしかめたままの表情のためか発言がいっそう冷たく感じた。少し卑下されたようで、周りも少し言葉をなくし、沈んだ。 「気が触れる、でござるか」と、そこで一回表情を落として、悩んだ顔のまままわりを仰ぎ、「こんなにいろんな者のいろいろな表情が見れるのに。――残念でござるなァ」 桃耶も卑下されたためか、それとも雪慈のまわりを見ようとしないことに心底残念なのかわからなかったがすこし沈んでいるようだった。 そんなとき、試合を見ていた男が声を張り上げた。 「前回の優勝者が負けたぞ!! 若い剣士一人が三人抜きだ。このチームは僧侶が美少女で、剣士は美男子、美少年だぁ」 買い物、催し物をしていた人たちがその言葉にざわめき、男たちは美少女目当てで、女性たちは美男子、美少年という言葉に反応してどんどん会場に向かっていった。 「お、どうやらはじめから大波乱でござるな」 少々相手を見てくるでござる。と返事を待たずに自慢の脚力でまるで兎のように高く跳躍して、文字通りひとっとびで試合会場まで行ってしまった。 「ついさっきの暗い顔が嘘みたいにいっちゃったな」 「え、ええ」 「……」 初めてみせるの彼の高い跳躍も、もう彼らは驚くことはなかった。 「おーい」 さっきの規約を教えてくれた青年が戻ってきて、みだれた呼吸を整えた後、 「この辺じゃ見ない顔で、ルールも知らなかったから、多分別の国からやってきたんだろう?」 「え、ええ」 たしかに、別の国からやってきた。 「これ」 「これは?」 宗一は二つ三つに折り込まれた紙をもらった。 「このお祭りのパンフレットさ、武術大会のルールがもうすこし詳しく書いてある。昨日から始まったお祭りも明日が最後、二日目に来た人はもらっていない人が多いんだよ」 「あ、ありがと――」 宗一が紙を開きながらお礼を述べようとしてやめたのは、少ししわが入っていたのではなく、読めなかったからだ。考えてみればそのとおりだ、言葉がわかるのが不思議なくらいで、痛みや空腹を感じるところでここは夢ではないことは確か、現実なのだ。 「ん、もしかして読めないのか?」 男の質問に少し困惑しながらうなずくと、長期休暇でもとって遠くまで来たのか? にしては言葉は通じるしなァと小言をいいながら、ポケットからどんぐりに似た茶色い木の実を四つ取り出して宗一に二つ渡し、雪慈と俊駕に一つずつ渡す。 「なんだ、これ?」 「言葉(ラングリーフ)の実さ」 「ラングリーフ?」 「世界的に点在している”学ぶ樹”の一種でその土地の言葉や文字を覚えるんだ。で、その木の実を食べると一時的に言語(ラン)魔法(ジック)の効果が得られるんだ」 ランジックの意味はわからないがどうやらこの木の実を食べると、 「これを食べると読めるというわけですね」 というわけだ。 「ああ。じゃあ健闘を祈る、前回のやつらは負けちまったがね」 そういって、男は控え室はあっちだぞ。と、言い残して人ごみをかきわけ会場に戻っていった。 すこし苦く、味はコーヒーに似ていた。雪慈は食べなかったが二人はパンフレットを読むべくその味を感じた。 「どれどれ」 「ええっと」 『武術大会規約 この大会は神聖な舞踊から派生したものの一つであり、今ではお楽しみか真剣勝負かとラインを引くのは非常に難しいが――省略――は以上のとおりである。 次に、魔法は中等学校卒業までに履修したものに限る。なお、技、術、魔法は必ず言葉に出してから発動しなければならない。そして、アレンジ、合成魔法は規定の範囲内でおこなうこと。――省略――。 前回よりの変更点。 羽、飛行魔法での空中戦は今回から禁止となりました。以上。』 それほどながい文ではなかったので、ほぼ流し読みで理解することができたが、ある一文だけは二度、三度とめをとおした。 「な、なんかすごォおくいやな文字を見たんだが」 「え、ええ。俺もです」 流し目で見ていた雪慈は彼らのだんだん青くなっていく顔を見て、木の実をかじり文を読む。 「魔法って書いてありましたよね?」 「あ、ああ」 俊駕、宗一が顔を見合わせ、目を通し終わった雪慈が顔を上げたところで、何か本が倒れたような音がする方向に目をやると四人目がひざをつき、着地していた。 「いやぁ、なぜか対戦場がぬれていて蔓に巻かれていたり、土にまかれていたり、奇怪な負け方をしていたでござるよ。そこで考えたでござ――」 「やめよう!! な?」 桃耶の両肩をがっしりつかみ、目の前まで引き寄せ懇願する。 「諦めが悪いでござるなァ」 俊駕は顔に縦線が入るくらい顔を青くしたまま顔をぶんぶん横に振り、 「いや、諦めが悪いとかそういう問題じゃない。絶対やばいって。なぁ宗一」 「は、はい。下手したら、どうにもならないことになります」 「大丈夫でござるよ。拙者は雪慈殿より強い自信があるでござる」 その言葉に雪慈は眉をぴくりと動かすが、桃耶は気にせず大きな声で笑っている。 「お前のその自信はどこからくるんだ?」 「自拭・,・辰・辰・・修鵑覆發里覆い任瓦兇襦W 「……はァ?」 「いうでござろう? 武士はくわねど高楊枝、と。かっかっか」 「そ、宗一ィ」 今度は宗一の肩に倒れるのを抑えるためにしがみつく。その目は彼を止めてくれといわんばかりのもので、宗一は困惑して雪慈を見る。 雪慈はというと彼は自分よりも感情がついていっていないらしく、わずかの表情の変化から、自分にはわからない。という意思を示していた。 「桃耶さん」 宗一がもう一度、彼を止めようとした。 「ああ、いい忘れるところでござった」 「なんだよ。人の意見は聞かずに自分の意見は通そうとするきか?」 「そ、そんなことはないでござるよ、大事なことでござるからな。みんなで相談して決めたいでござる。先ほどの試合後をみて――」 「おれは最後だからな。絶対イヤだぞ最初なんて」 「べつにいいでござるよ。それよりも拙者が言いたいのは」 俊駕は最後に戦うということだけで少しは不安が消えた。 「なんだよ、一体」 それを聞いて、桃耶は一回大げさにせきをして、周りの反応を見る。にぎやかな周りは完璧に蚊帳の外で、三人は桃耶に注目する。 「豚汁はどうでござるか?」 「今日は準決勝までを行い、決勝はハーバンの月祭最終日の明日だ。午前の部で決勝へ行くのは片方決まった。午後はもう片方を決める試合である。それでは第一回戦、先鋒、前へ」 彼はゆっくりと頭をさすりながら、観客に囲まれた武術場への階段を上る。 「なにも殴らなくても良いでござらんか。そんなに豚汁が――」 「今度ヘンな事いったら、そのちょんまげ切るぞ!!」 それを聞いて、今度は頭を押さえつける。そして相手と向きあう。 「それにしても、良いんですかね」 自分に託された黒鞘の刀に目を落とした。ずしりと重く刀が真剣であることを再度確認する。 「もう、いいよあいつのことは、相手が剣士じゃないから刀を持たないなんて。第一、もう優勝して料理の方法まで考えてんだから。もし相手が魔法つか……やべ!!」 「どうかしましたか?」 「いってない」 「え……あ」 そこで宗一も気づいた。 「魔法のこと、なんにも。技を出すときは口に出せということしか」 しかし、もう遅かった。 「始め!!」 始まってしまった。 実力者ほど攻撃を仕掛けるのには時間がいる。それは相手の実力を測るためだ。 「なぜ、武器を置いてきた」 「拙者は武器を持たぬものに刀を抜くほど、臆病者ではござらん」 相手は自分の胸の前で、手のひらを向かい合わせ、桃耶は左手足を前に出し軽くこぶしを握って構える。そして、しばらくお互いに黙ったままで、その状況に見かねたギャラリーが抗議を入れようとしたときだった。相手の手のひらがしろく光り、 「ファイヤーガン」 魔法が発動した。 それはまるで、先日見た猪の位の大きさの火の玉が桃耶めがけてまっすぐ飛んでくる。 「獣足……兎!!」 自分に当たりそうなギリギリのところで驚きながら桃耶は兎のように高く跳ね上がり火の玉を飛び越え、着地しようとするまえに、 「くっ、アイスポーン!!」 一呼吸もおかずに相手の魔法が発動する。相手の周りにこぶし大の水玉が無数でき、それが凍り付いて彼に向かっていく。 「と、猫!!」 桃耶は言葉に出したとおり、つま先だけ着地した後猫のように軽やかに一つ一つ氷をかわしながら前進する。 「それ、どこからだしているのでござるか?」 と、目を輝かした彼が真正面で言ったときに相手は驚いたが、接近戦を利用して、 「ソニックブーム」 と、叫ぶと桃耶と相手の間に白い鎌のようなものがまた無数でき、繰り出してきた。 「うおっ。獣足、鼬(いたち)!!」相手から距離を離しながら見事によけきった。 戦っている間は、周りは静かだったのだが距離を離し、桃耶たちが無言で対峙すると周りは波のように盛り上がった。 「補助魔法でも使ったのか? いや、声にも出してないし、発動させた気配もない。一体……」 桃耶をみながら、またゆっくりと構え、呼吸を整える。桃耶は後ろを流し見た。一人は仁王立ちでゆっくりと目を開き何事もなかった様子で、二人は冷や汗を流しながら、一人の後ろに隠れているのがみえる。 |