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異邦人
「ガァ!!」 「……!!」 ユリウスは拳を振り切り、雪慈は体が浮く。 「ぐ……ちっ」 「まだ、まだァ」 浮いた雪慈の水月が自分の方の高さと同じになったときに振 り切った腕も高さをあわせ、右手で剣を持ちながら左の上腕に 添え、左足に重心を左足に動かしながら上腕を押し込み左肘を 相手の水月に押し込んだ。 雪慈は武舞台の端まで吹き飛ぶ。 「そうでもない」 今、雪慈の疑問に答えた。 少しの沈黙の後、歓声が会場全体に響き渡った。 とある町のとある少年が空を見ながら父親に話しかけた。 「空を飛んでいる人がいるよ、父さん」 一方、父親である男は空を見ずに、 「ああ、二十歳、つまり20歳になったときに資格が得られるん だよ。受かるかどうかは別にな」 「へぇ。受かったの?」 男は自慢げに鼻息も荒げながら、 「落ちた」 と答える。 「自分の体を制御するのは難しいんだ。飛べることは飛べるん だが、すいすいっと飛べるようになるのは大変なんだ」 「……じゃあ、あの子達も大人なの?」 「ん?」 そういわれて、初めて男も空を見て、顔をゆがませる。 「おいおい」 しかし、自分の息子と変わらぬ年齢に見えるのにしっかりと魔法衣を纏っている。 「国はわからんな」 「え?」 男は息子の髪をクシャリとつかみ、 「いぃや。なんでもないよ。さぁ、早く帰らないとお母さんに 怒られる」 息子の両肩を後ろからつかんでせかすように押した。 「初めての任務ですごいのまかされちゃったね?」 「でも、失敗はできない」 「むむ。参った」 俊駕と分かれてからすぐ、少年からやっとのこと名前を聞きだした後、桃耶はあることに気が付いた。 「拙者はお主のご両親の顔を知らぬでござる」 それを聞いた瞬間、さっき泣き止んだばかりなのに、また泣 き出しそうに顔をゆがめる。 「泣くな泣くな、必ず見つけてみせるでござるから」 『しかし、マコトと申したか。コレだけの人数の中、どうやっ て親を探し出そうかのう』 「いるのは、拙者とマコト。たとえ探す人数が増えてもこの会場の人数の前では意味が無い。ふむ」 少年を肩車しながら腕を組んで考え込む。 「うむ!!」 何か良い考えが浮かんだようだ。 「お母さん、見つかりそう?」 「うん。拙者は声には自信があるでござるよ」 そういって、人ごみの中をすいすい進んでいった。会場に今日最高の歓声が鳴り響いたのもこの瞬間だった。 その歓声が鳴り響く中、彼はゆっくり立ち上がり、咳をひとつつくたびに吐血した。 「大丈夫かね」 「問題ない」 血を出しながら審判を押しのける。 「ほう、アヤカシでも血は出るんだな」 あまりにも歓声が激しいため武舞台上でしか会話を聞き取ることしかできなかった。 「ふん。コレくらいの傷、なんでもない」 『周りに自然がなく、人間が多くいる分、治りが遅いがな』 「自然治癒はするも、体力は減るようだな」 『宗一のように洞察力がたつな」 「よく、しゃべるな」 一度深く呼吸をすると、血も止まり、もう一度呼吸して、調子を戻すと腕を上げ構える。 「殺さずにまともに人間と思い切り接近戦で試合をするのは貴様が初めてだ」 昨日の初戦は殺す気だったし、それ以降は力を抜いていた。 「これでも国の傭兵を目指してるからな。あぁ、わからないか。ここの国のことは」 「わからんな」 二人ともしゃべりすぎというのを自覚したようだ。歓声もだんだんと治まり、同時にまたピリピリした雰囲気が漂ってきた。 そして、二人が一気に間合いを詰めようとした時、 「フレ〜〜、フレ〜〜、ゆ〜〜き〜〜じ〜〜!!」 会場が他の意味で一瞬静まり返った。しかし、それは本当に 一瞬で、 「頑張れ〜〜、頑張れ〜〜、ゆ〜〜き〜〜じ!!」 その人物を見て、「あいつ選手じゃなかったっけ?」、「なんで、階段の上から叫んでるんだ?」などと周りの人はうわさしたが、すぐに声の発生源からその雰囲気が感染しだし、一分とかからずにその人を中心に会場半分がこの掛け声と共に声を張り上げていた。 「お兄ちゃん。これ、なに?」 少年は見よう見真似で腰を落とし、その人物と同じようにまるで空手の正拳を出すしぐさをとる。 「ん〜〜、以前いたところでは声援、応援として使われているでござるよ。まぁ、フレーという意味はわからぬが」 「それで、コレでお母さんは見つかるの?」 「うん。拙者といれば否が応でも眼に留まるからのう。絶対見 つかるでござる」 そういって、桃耶は会場を見渡し、両親であろう一組がこち らに向かって足を速めているのが見えた。 桃耶が考えた作戦は、 “自分が目立てばきっとこの子にも目がいくから絶対見つかる作戦”だった。 「親も見つかり、応援もできて、なおかつ拙者が楽しめる。お お、一石三鳥とも言うべき名案でござ……ん?」 桃耶は武舞台の戦いを見ようと視線を動かすが、二人はじっとこちらを向いているのが見え、なおかつ一人はこちらにあふれんばかりの殺気を出していた。 「俺、雪慈が何を考えているかわかるよ」 二人は選手席から出ようとせず――丁度桃耶は自分たちの真上にいるかたちで応援している――じっと雪慈を見ている。 「俺だってわかりますよ。明らかに怒ってます。桃耶さん、迷子の親探しに行ってるんじゃないんですか?」 審判もぽかんと桃耶を見上げていた。 「たぶん、自分が目立てば親が見つかると思ったんじゃねぇ?“自分が目立てばきっとこの子にも目がいくから絶対見つかる作戦”とかいって」 「桃耶さんならありそうだから怖いですね」 宗一が言った。 「俺、桃耶さんみたいな人今まで近くにいたことないんです」 「俺もいねぇよ」 雪慈が審判にタイムを要求しているのがわかった。 「こういうとき、俺らどうすればいいんでしょう?」 その後、雪慈は真直ぐ桃耶を見つめ――その時、宗一と俊駕は自分の考えが間違っていないことに彼の表情を見てわかった――自らの体を浮かし向かっていった。 「とりあえず、桃耶のホネは俺たちが拾おう」 「い、祈りとかは……」 「全然オッケー」 二人は戦っていないのに、どっと疲れを感じていた。 「くっ」 後ろで微かにユリウスの笑い声が漏れた。雪慈はそんなユリウスにも、その事実を作った桃耶にも呆れ返った。なんなのかこいつらは。ヒトを馬鹿にしているのか? 「おい」 雪慈は桃耶の前まで来ると地に足をつけた。桃耶は突然こちらへ向かって来た彼に驚きつつ、しかし事態を分かっていないような満面の笑みで、両手を広げて迎えた。 「おお雪慈殿、どうしたでござるか? まだたいむを取るのはちとばかし早い気がするでござるよ」 「少し寝てろ」 「ん? 拙者はまだ眠くは――ふぐっ!!」 予想だにしてなかった雪慈の拳がえぐるように桃耶の腹に押さえつけられた。その衝撃たるや、一瞬息が止まり、しだいに中の血液がその衝撃によって逆流するかと思えるほど、やや鉄の味が桃耶の喉に広がる。敵でもないのになぜこんな目に遭わなければならないのか。そんなことを思う暇もなく桃耶はその場に崩れ落ちた。 ずるずると崩れていく桃耶の姿を遠目から見ていた俊駕と宗一、ユリウスまでもが同情的な気分になった。同時にそこまでやらなくても……と雪慈に反抗意識も生まれる。手加減というものを知らないのか。 雪慈の苛立ちはそれだけで多少晴れたものの、無駄な行為をしてしまった自分に新しい苛立ちを覚えた。なぜこんな感情的になってしまっているのだろうか、自分は。自分はもう少し冷静な者だと思っていたが――。 「そろそろ一人にならなくては……」 いつまでも彼らといたのではこちらのペースが乱れるだけだ。この世界のことを知ったのは彼らと共にいたおかげだが、そろそろ離れなければ自分が自分ではなくなってしまいそうだ。確かにこの祭りは楽しいが、早く終わらせなければとも思う。 雪慈は一気に舞台へ飛び降りると今までにない面持ちでユリウスと対峙した。なぜこんな焦る気持ちになったのかは分からないし、分かりたくもないが、己の本能には従うべきだ。 「長く待たせてしまったな。そろそろ終わりにしたいだろう?」 「いや、そうでもないが」 伸びてくる雪慈の手にユリウスは表情も変えず低い声で答えた。 「残念だが私は終わらせてしまいたい。」 早く終わらせて一刻も早く帰らなければ。雪慈を待っている者達がいるのだから。 そう思うと、不意に不思議な気分になった。自分は一体此処で何をしているのだろう。こんな自分を見たら、皆はどう思うだろう。 雪慈は少し視線を落として溜息を吐いた。己が情け無い。 「どうした?」 「いや。」 雪慈は目線をユリウスに戻しながら曖昧に笑む。ユリウスはその笑みに息を飲んだ。 「この世界にも鎌鼬はあるかと考えただけだ。」 全く違う事。しかし、大切なのはそれではない。 「鎌鼬。」 風が吹き荒れ、ユリウスの服が、皮膚が裂かれた。防ぎようのない攻撃にユリウスはただ身を固くする。剣を持っていても何の意味も持たない。 これが人間とアヤカシの差だ。雪慈は目を閉じる。 「早く降参しろ。死ぬぞ?」 そう雪慈が忠告しても、ユリウスは、笑んでいた。顔を覆った腕の隙間から緩んだ口元が見える。 何故笑えるのだろう。雪慈にはそれが不思議で仕方無かった。 それと同時に嫌悪感を覚えた。その笑みは、時折人間が見せた勝ち誇った笑みに酷似していたからだ。違う事は理解している。しかし、感情が追い付かない。 このままではまた宗一に怒られてしまいそうだ。雪慈が少し 腕を下げると、風が止んだ。 ユリウスは裂けた皮膚の手当てもしようとせずに不思議そうに眉を顰める。 「何故止めた?」 「・・・。腹立たしいんだ。」 人間が。自分が。 人間と馴れ合う事は許されない筈なのに。死した仲間の為にも。失った幼なじみの颯の為にも。 苦しかった。自分の心が揺れ動きそうなのに嫌悪した。 「これ以上楽しくさせないでくれ。」 雪慈の身体が揺れる。影が揺らめくように。 早く離れなければいけない。 「見付けたかも。」 そう呟いたのは少女だった。 「リンちゃんどう思う? あの人達みたいな感じしない?」 「ん。どうしてそう思うの?」 リンという絵の具には無い金髪の少女が武舞台の方を見る。 彼女達はたった今、この会場に転送された。服装は魔法衣の校正を変え目立たないものになっている。 「お、女のカン?」 「……」 「……」 「……」 「……ゴメンナサイ」 発言したのこちらも絵の具では決して出ること無い黒に少し赤みが混じった瞳の少女の方が折れた。 「確かに……」 「え?」 「うん。向こうの対戦相手は服装から見て明らかにこの国のもの。それにくらべて、もう一方の服装は――」 「ちょっと変だね。じゃ、じゃあ――」 「可能性は低くは無いけど、高くも無い」 「予言?」 「……うん。”月祭の有名人が知っている。”ジャノが言うに――彼女は仕事のときだけ自分の兄のことを呼び捨てにする――ホークスさんは大会の優勝者に絞ってるって」 「有名人ってあいまいだけど。この場合は」 「うん。まず間違いない」 小さい町にしては豪勢なつくりだ。入場に関してもひどく凝 っている。優勝すれば有名人になるのは必至である。 「そうすると、知っている人と本人が同じパーティって言うこ とになるね。えと、ユキジっていう人達が優勝すると」 これはさっきの声援から分かったことだ。 「でも、それだと人数が合わない。医者とサムライとアヤカシ 。つまり、4人いるはず。あそこには3人しかいない」 「じゃあ、あそこの人が?」 気絶している男を見る。 「なんにしても、情報が少なすぎる。はやく、ホークスさんとコンタクトをとらない……」 会話をしながら、この会場のパンフレットに目を通しあるとこに気づく。 「うん? リンちゃんどうかした?」 「こんなに会場のつくりがいいのに、賞金が少なすぎる。ここの町長が特殊な趣味をしているのは確認しているけど、こんな会場を設定できる魔法士はこの町にはいない」 |