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セイラのブルーダイヤの瞳が悪戯に光る。 弓月の漆黒の瞳を捕らえ、離さない。 悠然と構えたいた弓月は少しの空気の変化に気付いた。 セイラの手には銀色に煌く物が握られており、クロウの微かな変化が伝わってきた。 「お請けして下さらないのなら私にも考えがありますわ。」 口調が変わっている。 寒気がした。 「私、まだ魔獣って解剖した事がありませんの。どう致しましょう?」 「う、請けます!だからクロウにだけは手を出さないで下さい!」 さっきまでの態度は何処へやら。 弓月はクロウに抱き付いていた。 「だったら優勝しなさいよ。」 「ドゥルグは参加者枠に対して応募者が多過ぎるから最初に書類選考と抽選だけで大量に振り落とすだろ?俺も切手が買えた頃に申し込んだ事があるが書類選考で落ちたぜ。実戦前に、もし書類選考で落ちたら、その時はどうするんだ?」 「それなら全く問題ないわ」 セイラは自信たっぷりに断言した。 「書類選考にも裏っていうかカラクリがあってね、まず貴族の紹介状を添付して申し込んだ応募者は優先的にラ・ドゥルグ(予選の事。これを勝ち抜くと代表としてドゥルグに参加できる)に参加できるのよ」 「つまり、コネを使えと?」 「ええ」 「でも、俺には貴族の知り合いなんていないし」 「何言ってるの、こんな立派な貴族が目の前にいるっていうのに」 今度こそ弓月は言葉を失った。 暫くして、額に人指し指を当て 「貴族?」 と繰り返す。 「ええ。そう言えば自己紹介がまだだったわね。私はセイラ=ヴィラージュ。ヴィラージュ男爵家の三女。つまり私も貴族。文句無しでしょ」 「つまりセイラが俺の紹介状を書いて俺はそれで書類選考を抜けてラ・ドゥルグに出るって事か」 「そういう事。出るだけじゃなくドゥルグで優勝してもらわないと困るけどね」 よし、と弓月は手を固く握り締めた。 こえなら借金全額返済も夢じゃない。 「お金を我が手に!」 「兄さん奪還!」 二人はそれぞれの野望を胸に高く拳を突き出した。 エドガー・ヴィラージュは頭を押えた。 「どうされたのですか?」 無感動、だが心配そうにエドガーに問い掛けるのは美しい漆黒のヴェリーショートが印象的な女性だった。 彼女の名前は紫波姫夜華。 漆黒の髪と暗く冷たい瞳の東洋人だ。 東洋人にしては白いその肌が彼女の黒い髪と瞳を引き立たせていた。 「偏頭痛が――。」 エドガーは准将の威厳も無く夜華に答える。 それもその筈。 彼女はエドガーの補佐官なのだ。 「俺の偏頭痛より紫波姫大尉。ドゥルグの件は考えてくれか?」 夜華敬礼をして答えた。 「甘んじて請けさせていただきます。」 エドガーは夜華にドゥルグ優勝を依頼した。 彼女はエドガーの補佐官であるだけでなく、極めて優秀な科学者でもあるのだ。 夜華の現在の地位は武器を数多く発明してきた功績である。 そして彼女は武器を発明するだけでなく、誰よりもそれを使いこなす事ができた。 エドガーが依頼するのも当然だ。 しかし公私混同が嫌いな夜華が請けると思わなかったので、正直エドガーは驚いた。 「怒らないのか」 「場所がジュノーなら…と考えた時点で私も公私混同ですから」 「そうか、君には探し人がいたのだったな」 「ええ、昔住んでいた家にはもういないようでしたし違う町へ移ったのかも判りませんがもう少し、探してみます」 「では、もし優勝したら一週間休みもやろう」 「有り難うございます」 本当にそう思っているのか読ませない無表情で夜華は感謝した。 「但し、優勝する事が前提だ。できるか?」 「できるな?とお聞き下さい」 控え目ながらも自信に溢れた声に、エドガーは力強さを感じた。 「准将の目的を阻むのならば、誰であろうと容赦は致しません」 「それは頼もしい事だ」 「准将に拾って頂いた私ですから」 いくら優秀と言えど、いや、優秀だからこそ女性だという理由で夜華は他の科学者から冷遇されていた。 それを自分の補佐官として取り立てる事で救い、自由に研究できるようにしたのがエドガーだった。 夜華はそれに非常に感謝し、以来エドガーに忠誠を誓っている。 将校達からの引き抜きも条件も聞かず断ってしまう忠誠ぶりだ。 下がって良い、という合図で夜華は一礼してエドガーの執務室を後にした。 夜華去った後、エドガーは深い溜息を吐いた。 そして鎮痛剤を飲む。 セイラが家出してからエドガーの頭痛は酷くなる一方だった。 何だかんだ言っても三人いる妹の内に末のセイラが一番可愛い。 他の妹も可愛くない事は無いのだが、やはり科学と魔法ではどうしても自分と同じ魔法よりのセイラの方に情が移る。 もう一度溜息を吐くと、エドガーは書類の山に取り掛かった。 セイラが家に押し掛けて来てから弓月の暮らしは大変だった。 金銭的面では――、セイラがお金を持ってきて、それを使っているから少しは楽になったかもしれない。 |