Zero of All
青花は胸を叩く。色っぽいというよりは清々しい感じの美人である。
「じゃあ、彼に武器を見繕いたいんですけれど、良いのあります?」
セイカは薄ら笑いを浮かべて指を口元で振った。
その仕種には妙齢の女独特の艶っぽさがある。
「私の仕事は『作った物を売る』んじゃない。『客に合った物を作る』んだ。」
その毅然とした態度と、言う内容にセイラは心惹かれた。
「お金は惜しまないので弓月に一番良い物を作ってあげて下さい。」
「お金は関係ないよ。私は何時でも状況に一番良い物を作っている。三の姫。しかし多いに越した事は無いね。」 そしてセイカは手招きをする。
「付いておいで。私の仕事場に案内しよう。」
セイラはふらふらとセイカに付いて行く。
ただ、弓月が曖昧な顔をしていた。
「弓月、どうしたんだい?」
「俺はあの仕事場があまり好きではない。」
「我侭言うな。」
弓月の表情が気になりはしたが、セイラはセイカに付いて行きたかったので弓月の腕を取った。
「行こう。」
「俺は待っとく。」
「何言ってるの。本人が行かなかったら作れる物もつくれないでしょ?」
そう言ってずるずるとセイラは弓月を引き摺る。
子供だからセイラに本気で抵抗できない自分が情けない。
セイカはそれを面白そうに微笑みながら見ていた。
「流石の弓月も三の姫には弱いねぇ。」
「――。」
もう覚悟を決めたと言わんばかりに弓月は黙ってセイラに引き摺られていた。
そしてセイラはセイカの後を追って突き進む事数分。
少し古めかしい立派な作りの建物の前でセイカは止まった。
「此処が私の店だ。」
「――」
店と言うには自分が住むような豪勢さ――セイラの住む屋敷と同じような感銘を受けた。
「まぁ驚くのも無理ないね。」
驚いているセイラにはその一言だけであっさり受け流し、セイカは中に入る。
「入りな。」
そしてセイラが中に入るとさらなる驚愕が待っていた。
弓月は口の端に苦笑いを浮かべている。
「また増えたな」
「この間、ソウ国に旅行に行った時にね」
それは像だった。
宗教目的で作られる、仏像や御神像といった類の像が硝子棚に所狭しと並べられている。
一つ一つからは尊さが伝わってくるが、ここまで数が多いと仏の顔の悪魔に囲まれているような気がしてくるから不思議だ。
「不気味…」
「だろう。だからここは嫌なんだ。しかもセイカさんの蘊蓄が長い」
ひそひそ囁き合っている二人を余所に、セイカは像を手に入れた経緯や技術の時代推移を説明していた。
本当にコレクションを大切にしているのは解る、が。
正直な話、眠気を堪えるのが辛い二人だった。
「さて」
話し終えセイカは椅子に腰掛けた。
「仕事の話をしようじゃないか。弓月はどんなのが欲しいんだい?」
弓月は間髪入れず
「あと10g軽い奴」
そう答えた。
セイカは軽い瞬きを繰り返した後、胸を反らして天井を見た。
「お前が弓華さんの息子で、私の知る限り当世一の拳銃使いじゃなかったら、殴り飛ばすところだよ」
知らない名前に、セイラが戸惑う。
「ゆかって?」
「俺の母親の名前だよ」
「ああ、亡くなったって、」
セイラの中で何かが繋がった。
「女傭兵弓華!」
殆ど絶叫だった。
「傭兵神奈木弓華ね!」
それは軍人の間の伝説だ。
かつてこの国にいた一人の女傭兵。
彼女が味方した国は必ず勝利したという。
その傭兵の名が神奈木弓華なのだ。
「正解」
セイカはニコリとし頬杖を付く。
「弓月はね、弓華さんの息子さ。弓華さん直々に鍛えられてるからそこらの軍人じゃ相手にならない」
「その話は止めてくれ」
弓月は心底嫌そうだった。
「それより10g軽い銃だ」
「簡単にお言いでないよ。同じ強度のまま1g軽量するのに、私等がどんなに苦労してると…」
「楊青花だから、言うんだよ」
「そう言われちゃぁ、頑張らない訳にはいかないね。」
セイカはまた微笑む。
「ただし、金額はどうなるか知らないよ?」
悪戯っぽくセイカは言う。
セイラはその言葉を待ってましたと言わんばかりににっこりと愛嬌のある笑顔で答えた。
「お金ならお安い御用よ。」
「貧乏人の前でそんな恐ろしい話をしないでくれ。」
母親の話とお金の話で弓月の声は心底疲れていた。
「何言ってるの。ドゥルグに優勝して弓月ももうすぐ一般人の仲間入りよ。」
「簡単に言うな。勿論俺も優勝する気はあるがな――」
「だったら良いじゃない?」
このノーテンキ娘、と弓月は口の中で呟いた。
セイカはそれを微笑ましそうに見ている。
「そう言えば弓華も子供には弱かったねぇ。」
昔を懐かしむようにセイカは空を見つめている。
「自分に子供が生まれたら傭兵業をあっさりと辞めちゃうような人だからね――。」
「セイカさん――」
弓月は苦しそうに言う。
「それ以上は止めてくれ。」
「もう昔の話じゃないか。」
弓月はゆっくりと首を振る。
その動作は悲しそうに見えたが、セイラには他の感情にも見えた。

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