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が、一歩踏み出そうとした足は固まった。 そこにはラフな服装のセイラがいて、戸を開けようとしたのだろう、半端に上げた手を持て余していた。 「おまっ、帰ったんじゃ」 「迎えに来たのよ。せめて一試合くらい紫波姫大尉の試合も見せたいし」 そしてセイラは肩を竦めた。 「それにお兄様が一分おきぐらいに弓月の事聞いてくるの」 「何があったんだ」 セイラは溜息を吐いた。 その目に何と無く小馬鹿にされているような気がする。 「さぁさ!行きましょ!」 セイラに手を引かれて弓月は外に出た。 ドュルグの会場へと道々は早朝からお祭り気分である。 幾つにも並んだ露店を縫うように早足で向う。 「調子はどう?」 「絶好調だ」 弓月はブイサインを作った。 セイラは満足そうに微笑み、会場への階段を上る。 と、人々の沸き立った歓声が聞えてきた。 セイラの腕を掴むとセイラも頷き、早足で駆け上った。 階段を上り終えると、眩しい朝の太陽に照らされて一人の女性が立っているのが見えた。 紫波姫夜華大尉。 身を乗り出しているセイラの横に寄ると無表情に彼女が戦う相手と退治しているのが見える。 落ち着いている彼女とは裏腹に、対戦相手は背中に担いでいる大剣に手を当て、今にも飛び掛ってきそうだ。 夜華はゆったりと腰に巻いているベルトに取り付けている袋から何やら木の棒のような物を取り出した。 そして幾つかそれを相手に投げ付ける。 一体何なのだ。 相手は余裕の笑みさえ浮かべてそれを素手で叩き落とした。 「ちょろいな!」 「下を見ろ」 無機質な夜華の声に相手は下を見た。 と。 「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!」 棒が弾け男が大きく後ろに跳ね飛ばされる。 「爆弾!?」 一斉に会場がざわめいた。 皆我先にと試合の様子を見ようとする。 弓月は今にも落ちそうなセイラをしっかりと掴んで棒のような物の残骸を指差した。 「よく見ろ。導火線が無い。」 「・・・科学者って言ってたから魔法じゃないわよね?」 「そうだろうな。」 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 会場に男の叫びが響き渡る。 跳ね飛ばされただけなのに何故、弓月は男に視線を送った。 右腕を押さえてのた打ち回っている。 と、男の右腕は何十倍にも膨れ上がった。 「見るな!」 弓月がセイラを抱き抱えたのと略同じだろう。 男の右腕が飛び散る。 「失敗した。」 消え入りそうな幽かな呟きが弓月の耳に届いた。 「凄いって言うか、」 「酷いな」 後を引き取った弓月の言葉にセイラは頷いた。 弓月はくるりと背を見せ、階段を下りていく。 「もう行くの?」 「ああ。お前はそこでちゃんと見ていろよ」 「ええ。頑張って」 ひらひらと振られた手は人の波に飲み込まれた。 魔道具一つだけの持ち込みを許可されて、弓月は東ステージに導かれた。 この試合は会場中の注目を集めていた。 新聞は取らない、ニュースも見られない弓月は知らない事であったが、弓月の対戦相手は過去に数回ドゥルグで優勝しており、今回の優勝候補の一人なのだ。 全く無名の新人対優勝候補の試合は注目を集めずにはいられなかった。 勿論、実力が未知数の弓月に賭ける者などごく少数しかいなかったが。 始めの合図と共に相手は電撃の魔法を繰り出す。 しかし弓月は軽く身を捻ってそれを避けた。 「逃げてばかりでは私には勝てぬぞ」 相手は勝ち誇ったように怒鳴ってまた一撃を放つ。 弓月はそれも難なく避けて相手と距離を取り、魔銃を空に向ける。 自棄か、何かの策かと見守る人々の耳に 「天空のいさな」 と、弓月の低くよく通る声が聞こえた。 そして銃声。 「何処に向かって撃っているんだ!?」 嘲るような相手の口調。 しかし徐々に辺りが暗くなっていき、相手は一抹の不安を以て空を見た。 視界一杯の黒い円盤。 それは落下し、相手を暗い空間に閉じ込めた。 「鯨だ」 誰かが呟き、その波はあっと言う間に広がった。 「くそっ、こんなもの…」 相手はいさなを消滅させようと魔法を掛ける。 しかしどんな魔法も通用しなかった。 「無駄だ」 外から弓月が話し掛ける。 「こいつはあんたの魔法を喰ってどんどんでかくなるんだ。あんたが頑張れば頑張るだけこいつを喜ばせるだけだよ」 それでも暫くは相手も粘っていたが、やがて体力が尽き果て、暗闇に精神的にも追い詰められて 「ギブアップだ!頼むから出してくれぇっ」 と叫んだのだった。 誰も予想しなかった結果に会場は唖然となったが直ぐに会場はざわめきたった。 会場からは弓月に花や菓子が投げられる。 弓月はそれを一つ一つ丁寧に拾うとセイラの待っている場所へと戻った。 「弓月凄いじゃない!」 セイラは弓月の背中を思い切り叩いた。 「掛け金が膨らんで返って来るわよ。」 「そんな事してたのか。」 「今日は食べに行きましょうね。」 セイラは弓月の手を取って勢い良く振る。 成すがままにされているとふと大きな歓声が上った。 会場に身を乗り出すとまた夜華が入場しているのが見える。 「また?」 セイラは間の抜けた声を上げた。 「セイラ、お前は見るな。」 「どうして?」 「グロテスクだ。子供が見ていいものじゃない。」 |