Zero of All
「医師に何言うの?」
心配する弓月を他所にセイラがころころと鈴を転がすような笑い声を上げた。
どうして其処まで能天気でいられるのだろう。
弓月はセイラの明朗さに少し羨ましさを覚えた。
「だから脳さえ無事なら助けてあげられるから。遠慮無く戦って。」
「不吉な事を言うな。」
弓月は軽くセイラの頭を小突いた。
軽く舌を出してセイラは頭を押える。
「ごめんなさい。」
「神無木君。」
その声に弓月は思わず後ろに反った。
エドガーがいる。
セイラを小突いた所を見られてしまった。
「いや、俺は殴った訳では無く軽いスキンシップを取ろうとしただけで――。」
「何を言っているのだね?俺は君の試合を褒めに来ただけだ。」
それを聞いて弓月は胸を撫で下ろした。
その弓月の腕を、突如エドガーが掴んだ。
「ふむ、さっきの動きは只者ではないと思ったが、理想的な筋肉の付き方をしている。相当鍛えているのだろうな」
そして腕を放した。
「抜群の身体能力に呪文詠唱無しでの魔獣召喚。セイラが連れてきた時はすぐに化けの皮が剥がれると高を括っていたんだが、いやはや我が軍の魔術部隊にスカウトしたいくらいだ」
「いや、俺は軍人には興味ありませんので」
弓月は思い切り手を顔の前で振った。
「そうかい。かなり本気なんだがね」
「兄様、弓月が困ってるじゃない。それくらいで」
セイラはさり気なく弓月とエドガーとの間に入った。
「それもそうだ。セイラ、彼の試合が終わったら寄り道せずに帰ってきなさい。神奈木君、ラ・ドゥルグを勝ち抜いてくれるのを楽しみにしているよ」
エドガーは音も立てずに去っていった。
「まずい事になったわ」
「何が?」
「弓月、兄様に気に入られちゃった。兄様は、家族を除いたら気に入った人間にしか触らないの」
「何処がまずいんだ?」
「本当に軍にスカウトしに来るわよ。最悪、イエスって言うまで毎日」
セイラは心からの同情の視線を弓月に向けた。
「まあ頑張って」
「そんな無責任な…」
肩を落として弓月は大時計に目を遣った。
「そろそろ次の試合に呼ばれるから、また後で」
「うん、また。昼、何処でも奢るからね」
丁度下では夜華が勝利し、夜華の全ての試合が終わった所だった。
ふと目線を落とすと今度は相手の身体もかける事無く、さして大きな傷も無かった。
夜華が持っているのか剣のような、それにしては妙に長い棒である。
一体幾つの切り札を隠し持っているのだろう。
沢山の魔獣を切り札として持つ弓月はどちらが沢山の切り札を持っているか興味が沸いた。
科学は魔法と違って直径1mを越える大きな武器一つ以外なら三つ以外なら持ち込める。
そして防具は武器の内に入らない。
最大計算して四つの武器を持てる事になるのだが、・・・。
夜華はその規則を破らない方法で更に武器を持ってくる気がするのだ。
それが夜華が有能の科学者だからかどうかは分らない。
夜華にはそれを感じさせる“隠された何か”がある。
「弓月!」
弓月はセイラの声で我に返った。
セイラが可愛らしく頬を膨らませて仁王立ちになっている。
「もぉ。行くんじゃなかったの?」
「あぁ・・・。悪い。」
そう言って弓月はセイラに手を振って今度こそ別れた。
階段を下ると右へ曲がって会場袖の出場者控え室へ向う。
控え室に着くとドアを開け、弓月は近くの椅子に座り込んだ。
最終メンテナンスをしようと魔銃を取り出した。
そう云えば、と弓月は思い出す。
セイカに頼んでいる物はどうなっただろうか。
セイカの事だから必ず注文通りの品は作ってくれるだろう。
しかし、もし間に合わなかったら――。
良い物を提供しようとするばかりに凝り性なのがセイカの難点だ。
また凝り出していたら十中八九間に合わないだろう。
だが、弓月は魔銃の一点を見つめる。
夜華のレベルでなければ大概は大丈夫だ。
周りから感じられる魔力も今まで見てきた試合から感じた出場者のレベルも、両親には程遠い。
最高と謡われた魔術師、最強と呼ばれた傭兵。
その二人から訓練されてきた自分からしたら、まるで練習試合だ。
そこまで考え、弓月は苦笑いを浮かべた。
良い思い出など殆どない、特に父親の方は顔すら思い出せないのに、判断基準が両親である自分がおかしかった。
もし今、夜華と戦ったとして、勝てる確率は五分。
実戦ならば逃げれば済むが試合ではそれは負けだ。
しかし、それは今考えても仕方がない。
今は次の相手を倒す事に専念しなくては。
弓月は最後に引き金の引き具合を確かめ、銃を元に戻してホルダーに入れた。



弓月は、クロウ、いさなの二体の魔獣と体術を組み合わせ、徹底した省魔力、秘魔術で戦い、昼を迎えた。
その時点で弓月の勝率は十割、無敗の一位であった。
「弓月弓月、何食べる?満貫全席だって奢れるわよ」
弓月に賭け続けたお陰で中流家庭の年収ほどは儲けたセイラは、機嫌良く弓月に問い掛けた。
「そんなもん食ったら身体が重くなるだろうが。あっさりしてて美味いものが良いな。麺類とか」
「麺類?」
セイラはううんと頭を捻った後、にこっと笑って弓月の手を引いた。
「良いお店があるの」
そう言ってセイラが弓月を引っ張ってきたのは、外装からして高級そうな店で。
いかにも場違いな格好の二人組に、しかめっ面の従業員らしき男が現れたが、セイラを見て微笑んだ。
「久しぶりね。席二つ、用意できる?」
「それはもう。こちらへ」
二人は個室に通された。
「凄いな。顔パスか」
「常連なの。ここは世界各国の小麦料理を扱う専門店で、勿論うどんとか中華麺もあるから安心して。私はカルボナーラとチョコレートケーキにしよっと」
「変な店」
言いながらも弓月は天麩羅うどんを頼んだ。
それから間も無くカルボナーラと天麩羅うどんが届き、弓月はうどんの汁を啜る。
「・・・美味い。」

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