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色が付いていないと思うほど薄いしるなのに、天麩羅を食べるに丁度良い濃い味がする。 しかもその味の濃さは嫌らしいものではなく、寧ろ素材の味を生かした心地良いものだった。 「こんな美味しい物を食べたのは久しぶりだ。」 「でしょ?各界の有名人御用達の店なのよ。」 セイラは悪戯っぽく笑うとカルボナーラを口に運んだ。 微笑みながらカルボナーラを食べる姿は貴族の威厳も無い少女である。 天麩羅うどんで此処まで喜べるとは自分も魔獣使いの尊厳もないが。 しかし美味しい物は美味しいと開き直って弓月は無言で天麩羅うどんを食べる事に熱中した。 そして二人が一言も喋らぬまま食事を終えると何処からとも無く店員が表われ、セイラの前にチョコレートケーキとホットココアを置いた。 だが貧乏人である弓月がホットココアを見た事ある筈が無く、弓月はじっとそれを見詰める。 「弓月、どうしたの?」 「これ?ホットココアって云ってこの店でチョコレートケーキを頼むとおまけにくれるの。」 しかしそれがセイラが貴族の娘だからだとセイラは知らない。 「何だったら飲んでみる?チョコレートケーキとホットココアって云う甘い組み合わせが駄目なのよ。」 この店のチョコレートケーキもホットココアも超一品だ。 が、その甘いもの同士が同時に押し寄せてくるとなると少しばかり苦戦してしまうのも現実だ。 「本当に良いのか?」 「こんな時に限って遠慮しないでよ。」 弓月はホットココアに口を付けた。 途端、その表情が何とも形容しがたいものになる。 困ったような、辛いような。 「どうかした?不味いの?」 「いや、美味い、と思う。ただ・・・」 「ただ?」 「・・・味が濃い」 いかにもなその台詞に、セイラはチョコレートケーキを噴き出しそうになるのを寸前で堪えた。 そんな事をしたら勿体無いではないか。 「水で薄まるか・・・?」 ぼそりと呟いた言葉はセイラをも困惑させたが、本人は気付かない。 飲みたいけど濃いけどやっぱり飲みたい、と悶々としていた弓月だったが、やがて意を決してもう一度カップに口を付けた。 少しずつ飲めば濃さも弱まり、好ましい甘さが広がっていく。 半分ほど飲んだところで意識をカップから逸らすと、とうにチョコレートケーキを食べ終えたセイラがじっと弓月を観察していた。 「・・・飲みたいのか?」 「いいえ、結構よ。弓月の飲み方が可笑しいから見てただけ」 ああそう、と気の無い返事をして、弓月は残りも飲み干した。 「ご馳走さん」 「どういたしまして」 セイラが立ったのに続いて、弓月も席を立つ。 すっと差し出された伝票を受け取ったのは当然セイラで、ちらっと見たその金額が毎月の自分の食費より0が3つ多い事を、弓月は精神衛生上の問題により忘れる事にした。 大通りに出ると、祭りらしく屋台や見世物が軒を連ねていた。 「残り何試合だったっけ」 「23試合。うち20試合勝てば決勝進出」 「ハードね・・・」 「まあ、そういうタフさも見られてるんだろうさ」 何でも無い事のように、実際そうなのであろう弓月はちょっと肩を竦めただけで歩き出した。 セイラも小犬のように小走りで弓月の横を歩く。 「今度の試合はいつ?」 セイラに問われて弓月は時計を見上げる。 暫らく眉間に皺を寄せて、弓月は困ったように頭を掻いた。 「困ったな。あと三時間も空く。」 「だったら軍部の見学に来ないか?」 「兄さん!」 セイラは急に表われた兄に驚いて一歩後ずさった。 エドガーの後ろには夜華が物静かに控えている。 その目はただ真っ直ぐに弓月を見詰めていて、弓月は戸惑った。 肉食獣のような食い殺しそうな目ではない。 ただ、無表情に、無機質に弓月を見ているのだった。 「どうして兄さんがいるの!」 「丁度夜華を迎えに行ったら二人が見えてね。」 「だからって弓月を軍に勧誘する事無いじゃない。」 そう言ってセイラは頬を膨らませて外方を向いた。 セイラのその様子も可愛くて仕方ないと言うようにエドガーは目を細めてセイラを見ていた。 「そう気分を悪くするな。」 「弓月は忙しいんだから。」 「試合は三時間もないんだろう?だったら何を」 「内職。」 「・・・。」 エドガーはそれが我が妹から紡がれた言葉とは一瞬信じられなかった。 内職。 それは金なら捨てる程あるヴィラーシュ家には全く無縁の話だったからだ。 「そうだ。際物の内職が明後日までだったんだ。」 「ね?弓月、私も手伝うから早く行きましょ。」 「・・・。」 「ヴィラーシュ准将、大丈夫ですか?」 「またいつもの偏頭痛が。」 エドガーは頭を押えながらも夜華に手を伸ばした。 それは夜華薬を受け取るためである。 が、夜華は首を横に振った。 「あまり薬に頼られると、中毒になってしまいます」 エドガーは暫く辛そうにしていたが、やがて 「君がそう言うなら、止めておこう」 と諦めた。 「あまりしつこくなさると、嫌われますよ」 「参考にしよう。君こそ、随分と弓月君を気に入ったようだね?私以上に熱心に見ていたようだが」 |