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「せっかく綺麗にしようと思ったのに――。」 「そのつもりがあるんなら大人しくしていてくれ。」 弓月は上着を羽織ると今にも壊れそうなドアを開ける。 「どこに行くの?」 「走り込み。」 優勝前の、と心の中で弓月は付け足した。 弓月とセイラはドュルグの会場の前に立っていた。 弓月も心成しか緊張していたが、セイラの方が緊張しているように見えた。 「ゆ、弓月。」 体を僅かばかり震わして、セイラはぎこちなく弓月の方を見る。 「お前、大丈夫か?」 弓月は呆れてセイラの頭に手を乗せたがセイラはそれどころではなかった。 「頑張って、ね?」 「あぁ。」 弓月は軽くセイラの頭を撫でると会場に向かう。 セイラはその背中を見送ると、自分の席へと向かう。 弓月の優勝が見える貴族の特等席。 さっきまで強く握っていたせいでドレスの裾に皺が出来ている。 と、セイラの目は夜華を捉えた。 セイラは声も掛けずに夜華の横を素通りした。 「セイラ。」 「兄さん。」 セイラの大好きなエドガーの笑顔があった。 「大尉にちゃんと挨拶しなさい。」 「い、今は敵同士よ!」 セイラは頬を膨らませてそっぽを向く。エドガーの苦笑が見えた。 「私は敵に塩を送る事なんかしないんだから!」 「ただ挨拶するだけだろう。」 エドガーはセイラの頭に手を置く。が、セイラはそれを跳ね除けた。 「兄さんと言えども今日は敵なんだからね!」 その日、セイラがエドガーから一番遠い貴族席に座ったのは言うまでもないだろう。 弓月は銃を掌に乗せた。 先ほどもメンテナンスしたのだが、念には念を、だ。 あまり使っていない新品の銃だ。いざという時に弓月を裏切ることもあるだろう。 ――いざという時に弓月を救うこともあるだろう。 |